意識の変化は自ずとプレーの変化にもつながる。洛南戦では26得点、12リバウンド、5本のアシストパスも含め、要所で見せた絶妙なパスセンスも光った。自分の中にも『やりきった』充実感があったのだろう。翌日に待ち構える中部大第一戦について聞かれると「勝ちます。自信はあります」と、きっぱり言い切って白い歯を見せた。
しかし、洛南戦で死力を尽くした近大付属の選手たちの疲労は、自分たちが考えていたよりずっと深かった。試合開始から間もなくして西野は足に激痛を覚える。
「自分から交代させてくれなどとは絶対言わない子なんですが、今日はそれを口にした。よほど痛かったのだと思います」(大森コーチ)
出だしから相手に主導権を握られた試合は1Qで12-22と二桁のビハインドを背負う。それでも2Q終盤には33-38の5点差に詰め寄る粘りを見せるが、「後半は走って流れをつかむ余力がありませんでした。気持ちはあるが足が動かず、すべてが後手に回ってしまったという感じです」(大森コーチ)。結果は53-81の完敗だった。
気持ちはあるが足が動かない…そのもどかしさをだれよりも感じていたのは西野だったかもしれない。試合後、痛めた足を氷で冷やしながら「相手の留学生を止められませんでした」と、語る顔には涙が浮かんだ。「自分の力が出せないままに終わってしまった。ほんとに何もできませんでした」
しかし、大森コーチは言う。「あんまり痛そうなので4Qにもう1度ベンチに下げようと思ったんですが、自分はまだ頑張れると言うんです。試合は完敗でしたが、最後まで戦いたいという西野の姿勢に成長を感じました」
洛南を破った喜びも、中部大第一に大敗した悔しさも、3階席まで埋まった東京体育館も、そして、そのメインコートの広さも、近大附属にとってはすべてが初めての体験だった。そこで得たものを来年のチームにどう生かしていくのか。2年生の西野にはまた新しい1年が待っている。
「ひとまわり大きなエースになれるよう頑張って、来年、もう1度必ずメインコートに立ってみせます」
涙はまだ乾いていない。だが、迷いのないことばは頼もしく、力強かった。
文・松原貴実 写真・吉田宗彦