鶴見自身は「アジャストするのも難しかった」と言うが、「昨日が『はじめまして』だったので、どういうプレーヤーなのかも把握できてなかったですけど、今日は昨日の感じを見て何となく『こういうプレーがしたいんだな』というのがわかったので、そこに自分も上手く乗っかれたかなという感じがありました」と即席チームで個々の特徴をすぐにつかんだ。このあたりも、長くポイントガードとしてプレーしてきた経験値が生かされた部分。Wリーグで8シーズンも活躍してきただけのことはある。
筆者が取材した際の鶴見の第一声は、「葵ちゃんが喜んでるのが嬉しいです」というものだった。これだけのメンバーを揃え、束ねるのは簡単なことではなさそうに思えるが、鶴見に言わせれば、桂の元に集まる面々は必然的にまとまりが生まれるようだ。
「はじめましてだけど全然異質感がないというか、私からしたらみんな理解しやすい人で、でもちゃんと個性があって、それぞれを尊重しつつ自分の色を出せるっていうバランスが良い。彼女は言語化するのが得意だけど、人を集めることに関してはフィーリングで合う、わかる、理解できるっていう人を集めてる印象があるし、集まってくる人も彼女に共鳴してる感じがありますよね。不思議な人だなって思う。すいません、私が呼ばれたのは同級生枠です(笑)」
そして、ZOOS合同会社の代表としての桂に対し、敬意を深める。今野がMVPに選ばれた際に号泣した桂を見て、鶴見はここに至るまでの、表に見えない桂の努力に想いを馳せた。
「彼女は『優勝した~、イエーイ』だけじゃない。みんなはたぶん、試合もあっという間だと思うんですけど、彼女はいろんな苦労を積んで、こういう場所をみんなに提供して……あの涙にはきっと、孤独な戦いがめっちゃ詰め込まれてたと思うんです。本当に大変だと思うし、今日集まった子たちもただバスケットが上手いだけじゃなくて、そこへのリスペクトができる。その中心にいるのが葵ちゃんなんだなって」
そんな桂に誘われ、自身が知らなかったストリートという世界に触れることができた。Wリーグからの引退については「悲しかった」という鶴見だが、その後の約1年で自身の視野の広がりを感じ、充実度は高い。
「全然違う世界を今回知れて、面白かった。選手も熱いし、お客さんも熱い。『こんな文化があったんだ』と思って、すごく新鮮で、上手く自分の人生に取り入れられたらいいなと思った2日間でした。今まで見たことのない世界にいろんな人が連れてってくれて、やっぱり行かないとわからないことがあるなって思います。
5人制のときは、わかってくれる人がいればそれでいい箱入りの世界。ちゃんと守られて保証があって、それはそれで素晴らしい環境なんですけど、やるかやらないかを自分で決める、全部が自分の選択次第になってくる世界をこの1年間で見てきて、自分から取りに行かないと何も見えないという世界を知れて、今はいろんなものを吸収できてる。ありがたい時間だなって思います」
この翌週にはMAURICE LACROIXの一員として3×3 Spreads Gameに出場したが、グループラウンド敗退。風や暑さとも戦う難しさに「まだまだ勉強ですね」と唇をかみしめた。鶴見はこれからも日々あらゆるものを吸収し、成長の道を歩む。
文・写真 吉川哲彦