「BREXに所属するというだけで、少なからずプレッシャーはあると思うんですよね。これまでの実績も考えると、背負ってる看板が重たいなというのはやっぱりあると思うんですけど、でもそれも僕はそんなに気にすることじゃないと思ってます。
選手たちに常に心がけてほしいと思ってるのは、何故自分はここに呼ばれたのかということ。5人制だと、高校や大学時代に1試合30点取ってたような選手が約10人集められて、Bリーグの舞台に立つと思うんですけど、そうなってくると、点を取れる選手は他にいるから自分はこういうことをしなきゃいけないって、どんどん消極的になる。チームから求められてることにフォーカスしすぎてその選手の良さが消えちゃうというのは、日本特有だと思うんです。自分の良さを見失う時期が必ずある。BREXの選手たちも今がその時期だと思うんですよ。ただ、ちゃんとした人間性とか考える力、行動力さえあればそれは乗り越えられるので、この壁をどうやって乗り越えるのか、自分はこうだったというようなアドバイスをしてるところです」
自チームに対しては決して悲観していない一方で、国内の3×3界隈全体には市場の拡大・成長が頭打ちになっているのではないかという懸念も抱いている。国内ランキングで長く1位の座を張り、業界を牽引してきた自負を持つ齊藤にしてみれば、それは危機感に近いものだ。自身が高い熱量で向き合ってきた競技の未来を憂い、最前線から一歩身を引いた今も3×3に寄与していこうと考えているところだ。
「試合には出なくなりましたけど、自分が置かれてる立場は理解してるつもりで、例えば落合(知也)とか、女子だと桂葵ちゃんとかは、3×3の現状にどれくらい満足いってるのかなって思うんですよ。こういう、背負ってきた人たちが今5人制でプレーしてるのは選択肢としてはもちろんアリだと思うんですけど、仮に競技を背負ってきた人たちがいなくなってしまうと、ニュージェネレーションが出てこないといけないし、その彼らに3×3を背負う覚悟がどれだけあるのかということにもなる。そこまで含めてマネタイズとかマネージメントしていかないといけないんですよ。そういう中で、僕はランキング1位だったし、SNSの力も使って、今の自分にできることを探して、この業界を自分なりに背負っていけたらという思いでいます。従業員が3人しかいない僕の会社(株式会社Nevele)でも全国大会をやってきたくらいなんだから、育成や普及活動はやりますよ」
5人制のプロという身分をなげうって3×3の世界に乗り込んだ齊藤は、3×3を突き詰めながら「めちゃくちゃ魅力的な競技」と取り憑かれていった。その競技性が、見ていて楽しい、プレーしていて奥が深いというだけにとどまらず、選手の育成に適しているということを知ったからだ。
「5人制も、育成プログラムに3人制を導入したほうが良いと思います。ドイツってサッカーが強いじゃないですか。ドイツのサッカー協会は、小学生に11人制のサッカーをやらせてないんですよ。低学年の間は3対3のハーフコートのサッカーをやらせてるんです。少人数で広いスペースで、ボールタッチの回数が多いから何回も攻める機会がある。それで、中学生になってから11人制で戦術を学ばせてるらしいんです。その真似をしろというわけじゃないですけど、理にかなってますよね。3×3は12秒しかないから絶対に攻めなきゃいけないし、守らなきゃいけない。コーナーで待ってて1回もパスが来なかったなんてあり得ない。バスケットを始めた子は、シュートが入るから楽しいわけで、そういった本質を伸ばせるのが3×3なんですよ」
それ故に齊藤は、3×3に転向してから早い段階で自身の会社を設立し、普及や育成の事業にも注力してきたのだ。その一つが、現在進行形で展開しているRim Townということになる。
文・写真 吉川哲彦