「これ、正直赤字イベントで、ZOOSはまた赤字抱えちゃうんですよ(笑)。でも『トヨタ紡織から給料が入るからいいか』って。価値を表す一つの指標としてお金はわかりやすいと思うんですけど、でもお金だけじゃない。今回100万円以上売り上げたというのも、見に来た人たちの熱量があったから、それ以上の価値を感じるのかなって思います。より幸せに生きていくために、その最適解をみんなで探していきたいです。それは別にお金稼ぎを考えるんじゃなくて、今日はお金を払って見に来た人たちも幸せだったと思うし、応援される側もこういう空間で試合できて幸せだったから、みんながいいねと思える方法を考え続けなきゃいけないなっていうことです。
世界を変えたいとかマーケットを大きくしたいとかじゃなくて、『私たち、こうだったら幸せじゃない?』というのを表現し続けたい。それに共感する人がジョインしてくれたら嬉しいし、その結果大きくなっていくのか、濃くなっていくのかはやってみないとわからないですけど、これを1億円規模のイベントにしようという野望はないです。いろんな人が関わってくれて、『良かったよ』って言ってくれて、何百万の赤字なんて何も怖くない」
桂がそんな思考に至った裏にはこんなエピソードがある。学生時代、桂は遊ぶ金を作るだけのためにバイトに精を出していたが、ある日、それを兄に咎められた。
「別に楽しいわけでもなくて、疲れて帰ったときに『なんでバイトしてるの? 何か得られるものがあるの?』って言われて『お金』って言ったら、『俺がお小遣いあげるから今すぐ辞めて。何に時間を使うのがいいのか、もう1回考えたほうがいい』って。それが結構衝撃的で。お金はあくまでも幸せになるための手段であって目的じゃない、そこは一生間違えたくないって思ったんです。ジョーダンブランドやヤマザキビスケットさんは、そういうビジネスじゃない想いに共感してくれたのかもしれないし、ここに集まる人の熱量に共感してくれたのかもしれないし、私はそういう人たちと一緒に生きていきたい」
アマ・デグビオンと小野寺佑奈、桂の3人だけで大会に臨んだZOOSは初戦で敗れ、敗者復活戦で生き残り、セミファイナルでFLOWLISH GUNMAに屈している。試合には敗れた桂だが、試合後は清々しい笑顔を見せた。赤字であることを除いて……いや、赤字であったとしても、桂にとっては大成功の興行だったのだ。多くの人の力添えがあったことに感涙し、ファンに囲まれて拍手を浴び、ZOOSファミリーと記念撮影をする姿は、東京・有明の夕暮れのウォーターフロントというロケーションも相まって、青春まっただ中感にあふれていた。金銭には換算できないこの貴重な一瞬を、桂葵は心から楽しんでいる。
文・写真 吉川哲彦