「ZOOSを立ち上げてから今まで過ごしてきて、世界って変わらないなって思ったし、『世界を変えたい』なんてそんなおこがましいことないなって思ったんです。自分が生きてる世界が少しでも良くなればいいなというのが、私がたどり着いてる答え。半径1メートル以内の、手の届く範囲の人たちと一緒に幸せになれたらいいと思うんですよ。たまたま3×3女子の人たちは手の届く所にいて、『私たち、こうなれたらいいんじゃない?』というのをシェアできる。スポーツの世界において、ライバルに共感するって意外と難しいことだと思うんですけど、少なくとも今日ここにいた選手たちは素直な気持ちで『私はこれで幸せ』って言ってくれる人たちだから、この範囲だったら一緒に作れる。これ(Q.O.Q)で世界が変わるとかは思ってなくて、『これが始まりだね』ってみんなにも言いました。世界は変わらなくても、その人の生きてる世界がちょっと良くなることがZOOSのコミュニティーの定義みたいなものなのかなって思います」
日本国内で開催される3×3の各種大会は、基本的に無料で観戦することができる。新たなファン層の獲得、競技の認知度向上という観点では必要なことだが、それに対してこのQ.O.Qはチケットを購入しなければ一般客が入場できないイベントだった。必然的に観客は3×3を普段から熱心に応援するファンばかりとなり、一たび試合が始まれば1プレーごとに大きな盛り上がりを見せたことを、桂は「エモかった」と述懐。興行を打つ上では、ハッピーな空間を作る仲間は何も選手たちだけではない。
「もしかしたら、お金を払って見に来るというのは大事なのかもしれないですね。お客さんとしても、自分たちもこの大会を作り上げる一員だし、お金を払った分も楽しみ尽くさないと損みたいな心理があるのかもしれない。競技がここまで発展するためにオープンな場所でやるのは素敵なことだと思うんですけど、トップリーグができて10年経つわけで、各チームや選手もそれなりの長い歴史を持ってて、その人たちの試合にお金を払って見たいという人がどれくらいいるのかというのは問題提起として上げたいです。
今回は、チームにもそれを課したんですよ。10万円の参加費を貰って、その代わり5千円のチケットを20枚あげて、全部さばけたら参加費は実質なかったことになるし、何なら1万円で売れば利益が出るよって言って。選手にとってメインコンテンツの試合でどれだけお金を生み出せるかということは、5人制みたいに何万人の中で試合をするわけじゃないから、みんなで考えていきたいです」
資本主義社会においては、利益を上げなければ失われていくものが多いという厳然とした現実がある。業界の成長のためにも、ビジネスライクな観点は欠くことができない。ただ、桂は「ビジネスをやるつもりはない」と明言し、「事業をしなくていいのがZOOSの強み。リーダーの私が好きでやってることだから」とまで言う。選手や試合、競技の価値を測る物差しの一つとして、金銭が存在しているというだけのことだ。このQ.O.Qは実質的なチケット収入が100万円を超えたということだが、桂は良い意味で、その数字を額面通りには受け止めていない。