山澤恵がWリーグでのキャリアにピリオドを打ったのは、コロナ禍で打ち切りとなった2019-20シーズンのことだ。引退発表から既に4年半の月日が経った今、山澤は3×3チーム・TOKYO BBの一員として再びプレーに打ち込んでいる。
引退後の2年間は、“バスケットボールの家庭教師” で知られる株式会社ERUTLUCでスクールコーチを務めていた。そのさなかに3×3に興味を持ち、山澤は再びコートに立つことを決意する。
「膝の手術を重ねてて、痛みも引かなくなって『現役はもう辞めよう』となったんですけど、指導者として活動してるといろんな学びがあって、体のこととかトレーニングのことをいろいろ知っていくうちに、『自分ももっとできるかもしれない』と思って復帰を決めました」
3×3の世界に何のツテもなかった山澤は自力でチームを探し、SNSでTOKYO BBを知る。育成環境やコーチの存在が決め手となり、山澤はDMでチームオーナーに連絡を取って練習に参加。有明葵衣や岡田麻央など、ポジションの近い選手が多かったことで、チーム側からは「当面は試合に出るのは難しいと思うよ」と言われたが、一度も触れたことのない競技とあって、経験を積むところから始めようと考え、正式にチームの一員となった。
Wリーグ経験者ともなればすぐにでもその実力を発揮できそうなものだが、同じバスケットでも競技特性は大きく異なり、実際にプレーしてみなければわからないこともある。「Wリーグの経験はそんなに関係ないなって思いました。全然別の競技というか、視点も戦術も全く違うので、慣れるまでは大変でした」と苦労もあったようだが、その一方で競技の魅力にも触れていった。
「競技のことは何となく知ってましたけど、実際に試合を見に行ったこともなかったし、知り合いもいないし、本当に関わりのない競技に『乗り込んでみました』っていう感じです(笑)。最初はきつかったですね。体の当たりも運動量も5人制とは違って、やっていけるかなって思ったんですけど、攻守の切り替えとか戦術は面白いし、試合中にいくらでもひっくり返せる展開が生まれるところとか、練習通りにできるわけでもない、読めないところも楽しいです。いろいろな場所で試合をする環境面だったり、天候に左右されたりっていうのも魅力かなって思います」
山澤は、TOKYO BBというチームであるがゆえの難しさも感じていたが、そこからやりがいも見出した。高卒で新潟アルビレックスBBラビッツに入団した山澤は、Wリーグでは5シーズンしかプレーせず、引退時は23歳という若さだったが、現在は28歳になった。TOKYO BBは有明を筆頭とする元Wリーガーたちが昨年度限りで第一線を離れたため、今のチームメートは年下ばかり。新潟時代もエースガードとして、キャプテンとしてチームを引っ張った山澤にとって、そのリーダーシップを発揮するチャンスでもある。
「有明さん、岡田さん、安江(舞)さんがいて、出来上がったチームだったので、そこに後から入っていく難しさもありつつ、チームのスタイルみたいなものを下の年齢の子たちに引き継ぐ役目もあると思ってました。上の人たちがやってきたバスケはすごく尊敬できるし、私も同じようにプレーしたい。そこを上手く伝えて、チームでしっかり表現したいです」