「下手でも一生懸命な姿とか、『応援してください』『ありがとうございました』という言葉に、人の心は動く。EXEって、ほとんどバスケットを見たことがないような人たちが来る所で試合をしてるじゃないですか。そこでいかにそういう人たちの心をざわつかせるか、それがバイブスだと思うんですよ。それでTARUI RAZORBACKSという名前を覚えてもらう、岐阜県垂井町という所を知ってもらうのがこのチームのコンセプトで、僕がやりたいこと。
アルバルクでも、初めてバスケットボールを見に来る人って多いんです。一般の方に『バスケットボールで知ってる選手はいますか』ってインタビューしたら、『あのアメリカでやってる……そうそう八村(塁)選手』ってなるんですよ。千葉だったら富樫(勇樹)選手とか出てくるかもしれないですが、Bリーグでもまだそのレベルなんです。うちの選手たちには、初めて見る人たちに面白いって感じさせるようなプレーとか人間性を出してほしいです。自分の時間を使って来てくれる人に、その時間を1秒でも楽しんでもらいたい。お金以上の満足感を持ってもらったり、『私たちも頑張ろう』って思ってもらう。アーティストのライブや韓国ドラマを見て『明日頑張ろう』と思う人がいるのと同じで、スポーツにはその力があるんです。レイザーバックスに触れて、来て良かったと思ってもらうことが一番ですね」
そのためにはまず、チームの運営を軌道に乗せる必要がある。現時点では、「僕の肌感ではそんなに悪くない」ということだ。
「町とも共同でいろんなことをやって、認知度も高まってますし、町で毎回パブリックビューイングもやってるんですが、お客さんが来てファンクラブにも入ってくれて、頑張れって言ってくれる。もちろんお金がかかることですが、僕自身が選手たち以上にバイブスを持ってやってると思ってるので、自分の会社で稼いでいけばいいし、同じバイブスを感じてくれた企業さんにも応援していただいてます。
シーズンが始まる前に掲げたのが、まず1勝ということ。今のチームだと、営業しても『また負けちゃってるじゃん』って言われちゃう。事業面と選手たちってニアリーイコールなので、どちらかだけ頑張ってもダメなんです。例えば僕にお金があっても、それで良い選手を獲ってきて勝つだけでは町は変わっていかない。今いる選手たちはわざわざ垂井に移住して、垂井の企業で働いてくれてる。このチームで1勝を獲りたいんです。僕が生まれた垂井という小さい町にせっかくチームを作ったので、やっぱり『勝ってるじゃん、すごいね』って言われたいですし、それで垂井の町に誇りを持ってもらったり、自分たちにも何かできるんじゃないかっていう空気が高まってくればいいですよね」
今は地道に積み重ねる段階であり、困難な状況も糧にしていく時期ではあるが、この舞台は結果次第でシビアな判断を下さなければならない厳しい世界でもある。8月3日・4日のラウンド6は、隣県の愛知県名古屋市での開催。南は、ここを重要な節目と考えている。
「今日までは過程で済まされるかもしれないですが、次のラウンド6は垂井からも多くの人が来てくれますし、役場の皆さんもツアーで来てくれるんですよ。何だかんだ言ってもスポーツは白黒がつくので、やっぱり勝利を見せたいです。負けても応援されるのは最初のうちだけ。町の人もそっぽを向いちゃうかもしれないので、次のラウンドが転換点になるように、最大限のことをやっていきたいです」
文・写真 吉川哲彦