そんな意志の強さが最高の結果を手繰り寄せたわけだが、実はその強い意志で一度はバスケットから離れる決断もしていた。矢上は大学卒業後に地域リーグの強豪・秋田銀行で5年間プレーし、全国制覇に貢献。2019-20シーズンを最後に退職して上京した際はもうプレーするつもりはなかったのだが、当時BEEFMAN.EXEに籍を置いていた桂葵に誘われ、3×3という未知の世界に足を踏み入れた。自ら消そうとしていたバスケットへの情熱は、ここから再び燃え上がることになる。
「もともとはバスケットを辞めるつもりで、強い覚悟で東京に来たんです。でも3×3をやることになって、やるからには勝ちたい、どの大会でも優勝したいと思ってやってきました。いろんなチーム、いろんな選手とやることができて、その中でしっかり勝ちきれるということが私の人生を豊かにしてくれていますし、やっぱり続けてきて良かったなと思います」
昨年のBEEFMAN.EXEでの優勝と併せ、3×3.EXE PREMIERでは個人2連覇の勲章を手にし、今回はファイナルMVPにも輝いた。その上、今年はJBA主催のジャパンツアーなどでも優勝しており、矢上は完全に日本における3×3のトッププレーヤーの1人となった。第一線を走る者として、矢上は日本の3×3シーンを盛り上げたい気持ちをさらに強くしている。
「私の1年目はコロナ禍でお客さんも集まらなかったですし、メディアの皆さんも今と比べると少なかったんですけど、今年はいろんな方が見てくれて、SNSを通して魅力を伝えてくれてますし、特に今回はたくさんの人が会場に来てくれて『勝って良かったね』とか『すごく楽しかった』と言ってもらえたのがむちゃくちゃ嬉しくて。だから、これからも私たちが頑張ることでたくさんの人に笑顔になってもらえるようにやっていきたいです」
このプレーオフには家族が来場し、故郷の福島では祖母もリアルタイムで映像を見ていたとのこと。自身が今その身を置いている環境に、矢上は感謝している。
新しい幕を開けた矢上のバスケット人生、自身は「そんなに長くはできないと思うんですけど」と語るが、「今度辞めたらその先どうしようと思ってるくらい、私=バスケットになっている」とも言うように、矢上にとってバスケットは欠かせないものだ。優勝の味をよく知っているだけに、「もしこうして世界につながる試合ができるのであれば、どんどんチャレンジしていきたい」とさらに上を目指す意欲も高まっている。
G FLOW.EXEではバスケット人生で初めてキャプテンとなり、自ら「動物園です(笑)」と表現する個性豊かなチームをまとめ上げてきた。その中で「勝ちにこだわり続けているし、第一に楽しんでプレーするということを絶対に忘れないチーム」であることを誇り、「すごく楽しいシーズンでした」と満面の笑みを浮かべる。明るくひたむきなチームメートとプレーを楽しみ、結果も伴っている今、矢上はその充実感を原動力に、持てる力を出し惜しみなくバスケットに注ぐ覚悟だ。
文・写真 吉川哲彦