「給料はそれまでの半分くらいになったし(笑)、延期になって大変でしたけどね。夢のような大会のはずが、仕事場の前ではデモをやっているし、TVをつけると『中止か』と出てくる。それでも何とかしがみついてやってきて、無観客ではありましたができました。自分がプレーするのが一番楽しいに決まっていますが、その時間は尊くて限られています。歳をとったなりに人生と向き合う中で、またバスケットに関われるのは幸運。信念を持ってやれたので悩むことはなかったし、最後までしっかり見届けようと思いましたね。タイタニックの船長と一緒ですよ、『これが沈むときは落合の夢も沈むんだな』って(笑)。それくらい気概を持ってやっていましたし、賭ける価値もありましたからね」
ストリートと3×3でしのぎを削ってきた2人は、海老原氏が今年3×3.EXE PREMIER事務局の一員となったことで、再び同じステージに立つ。立場は異なるが、落合はオリンピックが世間に与える影響力の大きさを、海老原氏は3×3が持つ可能性の大きさをそれぞれに実感。東京2020オリンピックに携わった者として、3×3をさらに発展させていきたい想いを共有する。
「オリンピックに関しては自分のキャリアの中でも間違いなく一番反響があって、日本だけではなく世界中から応援メッセージをいただきました。バスケット全体もそうですが、マイナーだった3×3をどうにかして盛り上げたい、メジャーにしたいという想いはさらに強くなっていきましたね。それと同時に選手としても、オリンピックに出る目標は叶いましたが、そこで終わりにするつもりは全くなかったし、世界に挑戦していきたい想いももっと強くなりました。結果的にメダルは獲れなかったので、日本が世界に勝つ姿を見せたい。パリオリンピックやワールドカップ、プロサーキットといろんな舞台がある中、僕はそこで先頭に立ってチャレンジしたいです」(落合)
「僕は3×3が生まれた頃から一緒にいると言ってもおかしくないですが、例えば3×3.EXE PREMIERだけを見ても、2014年には7チームしかなかったのが今は日本だけで女子も含めて48チーム、海外のカンファレンスも含めると100チーム以上あるわけで、この成長のスピードはすごくポテンシャルがあると思うんです。世界的に見ても、新しい国が台頭してきたり新しい場所で大会が開催されたり、毎年何かしらの変化を感じます。最近は3×3ネイティブというか、この種目から始めましたというような選手も増えてきて、3×3全体のスピード感はすごく感じますね」(海老原)
その中で、今や国内の枠にとどまらない3×3.EXEが果たすべき役割も当然ながら大きい。落合は「PREMIERでプレーする前に3×3.EXEの街のトーナメントに出させてもらって、そこで優勝してワールドツアーに行ったこともある」という自身の経験を踏まえ、「世界に送り出してくれるリーグ。いろんな選手と戦えるステージを用意してくれているし、PREMIERも同じ軸でやってくれているので、3×3の発展を支えてくれているのは昔も今も感じています」と存在意義の大きさを語る。
ただ、3×3自体の歴史がまだ浅いということもあるが、3×3.EXEにはもちろん課題もないわけではなく、東京2020オリンピックの後には困難な現実も待ち構えていた。2人はそれをどう受け止め、この先どう突き進んでいくのか。
先駆者たちが信じる3x3.EXEの存在価値と可能性(後編)へ続く
文 吉川哲彦
写真提供 3×3.EXE