人生における決断には、“タイミング” という要素もつきまとう。昨夏の東京オリンピックでの5人制銀メダルの快挙から1年。日本の女子バスケット界が迎えた好機を下火にしてはならず、このタイミングで新たに動きだすことを桂も前田も追い風と受け止めている。
「これは本当に運が良いと思います。同じバスケ界にいてもWリーグの課題感や伸びしろは、私は中に入ったことがないのでわからないんですけど、女子バスケ界全体でもっと良くしていける部分がある。Wリーグや5人制には歴史があって環境も整っていますけど、私たちは何も持っていないスタートアップだからこそチャレンジできること、壊していけることもあって、それが上手くシナジーを生み出せたらいいなと思うし、市場としてより良い方向に向かっていけたらと思っています」(桂)
「女子バスケ全体が注目される中で、チームありきのイメージが強い5人制と違って3x3は個人から入れるというのがあると思うんです。5人制は『このチームのこの人』という見せ方が多いと思うんですけど、3x3だと今回葵がやっていることも、まず彼女を知ってからチームのことを知るというところがある。個人が注目されるからこそ、バスケットを知らない人にも見てもらえる機会があるという意味では、このタイミングでこういう活動ができることは良い効果があるんじゃないかと思います」(前田)
2人は7月中旬にドイツに渡り、同29・30日にはチェコ・プラハでプロサーキットデビューを果たしている。3試合を戦って5位という結果だったが、イタリア戦で記念すべき初勝利を挙げ、敗れた2試合も3点差、2点差と接戦。チームの初得点は、ショットクロックギリギリで桂が右手1本で放り上げるように打った2ポイントだった。今年のFIBA 3x3 Women’s Seriesは9月18日まで開催予定。Düsseldorf ZOOSはシーズン途中からの参戦だが、残り試合で少しでも爪痕を残し、来年以降に弾みをつけてもらいたいところ。それが周囲に波及し、新しい潮流を生むことになれば、桂葵と前田有香の決断は2人にとっての正解となるだけでなく、日本女子バスケット界にとっても大きな節目になるはずだ。
文 吉川哲彦
写真提供 ZOOS