人生は決断の連続である。何通りにも分かれた選択肢からどの道を選ぶか、次の岐路でどの方向に進むか、その繰り返しで人間の一生は形成されていく。パラレルワールドという概念があるが、おそらく人間にもパラレルキャリアと呼ぶべきものがあり、「もしあのときに違う道を選んでいたら……」と自身の歩みを振り返ることは誰にでもあるだろう。
まだ30年にすぎない桂葵の人生は、とりわけ大きな決断の連続だった。名門・桜花学園高から早稲田大に進み、世代別日本代表やインカレMVP受賞など数々の栄光を手にした選手でありながら、卒業後はWリーグの道を選ばず、一度はバスケットから離れた。その桂が再びバスケットの表舞台に立ったのが、3x3.EXE PREMIERの女子カテゴリーが創設された2018年。以来、会社員との両立で3x3に取り組む日々を送っていたが、今年2月に新卒入社から約7年勤務した大手総合商社を退職し、4月1日付でZOOS合同会社を設立した。その新会社で取り組むプロジェクトの第1弾が、Düsseldorf ZOOSというクラブチームでのFIBA 3x3 Women’s Seriesへの参戦。要するに、3x3のプレーを主とした自身の夢の追求に全精力を傾けることを決断したのである。桂本人にとっても、大学を卒業したときには想像していなかったに違いない。
その決断は3x3プロサーキットのレギュレーション変更によって促されたという側面もある。これまでは男子のみクラブチーム単位の参戦で各種大会が開催され、女子はフェデレーションチーム、つまり各国の代表チームしか出場できなかったのが、今年からはチーム・選手のプロ化促進を目的に、女子もコマーシャルチーム(商業利用可能なチーム)という名目でクラブチームでの参戦が認められたのだ。日本は既に3x3.EXEがEXEWING(エグゼウィング)というチームを派遣しており、モンゴルからも1チーム参戦。Düsseldorf ZOOSは3チーム目のコマーシャルチームとなる。
そんな背景もあったとはいえ、安定した地位を自ら手放す桂の決断が、そう簡単に下せるものではないことは確かだ。しかしながら、桂はこれまでも選択を迫られるタイミングで、その都度自らを信じて決断を下してきた。桂自身は「環境に恵まれた」と表現するが、これまでの決断の積み重ねがあってこそ今があり、そうして歩んできた道が他の誰かの道標になり得るという自負も持つ。
「もちろん自分で覚悟を持って決断してきたというのはありますし、人生は選択が大事だという話をすることも多いんですけど、振り返ってみるとそれを応援してくれる環境が周りにあって、自分が生きたいように生きられるという状況もありました。こういうコミュニティがあることで、誰かが決断して切り開いていくことを後押しすることができたらと思うし、私たちとの出会いで勇気づけられる人がいたらいいなとも思います。自分がいろんな人から与えてきてもらった分、このプロジェクトを通してちょっとずつでもメッセージを発信して、未来の子たちに還元できたらと思っています」