「人生設計や家庭環境などいろいろある中で、我々にとっても1年の延期は簡単なことではなかったです。それでもやると決めたメンバーの覚悟は、選手と同じくらいその思いは強いです。だからこそ、東京オリンピックを作るこの組織も強くなっていると実感しています。熱いメンバーばかりですし、現場ではみんながものすごく工夫をしています。安全に成功させるためには、ディテールの積み重ねしかありません」
飛行機に例え、「着陸体制に入った段階」を迎えた今、「やり残したことはないかという不安になりつつも、選手たちがここに到着し、無事に大会を終えてここを去るまでのフローを追ってスタッフ全員で最後まで指差し確認していきます」と安田さんにとっても集大成を迎えている。開会式の翌日となる7月24日に3×3はスタートし、いきなり男女日本代表が登場する。
オリンピック史上初の試みも、無観客試合で断念…
この取材を行なったのは、7月に入ってまもなくの頃。青海アーバンスポーツパークは3×3以外にも、スポーツクライミングとブラインドサッカーが会場をシェアして行われる。3×3の国際大会ではウォームアップコートをファンが見ることができ、それも特徴のひとつだ。東京オリンピックでも同様に、チケットを持っていない方でも無料で観覧できるウォームアップコートの実現に、安田さんは月日をかけて説得を続けた。それはオリンピック史上初の試みでもある。
会場をシェアする他競技からは安全上の問題や選手の集中力を欠くのではないか、と反対意見も多かった。3×3では当たり前のことを理解してもらうため、一つひとつ丁寧に説明していった。最後はFIBAとIOCが「アーバンスポーツであり、一般のお客様にもっと身近に感じて欲しい。東京大会の象徴となる初種目でもあるからこそ、一般公開するのは前向きなチャレンジなのだから、ぜひやってみよう」と背中を押してくれたことで、実現にこぎつけた。
しかし、このお話を伺った後、無観客試合が決まったのは周知のとおりである。東京では実現しなかったが、今後も続くオリンピックではウォームアップコートの一般公開がスタンダードになるはずだ。あきらめずに奔走した安田さんらの努力の賜物である。
後編へ続く
文・写真 泉誠一
写真提供 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会