「3×3.EXE PREMIER 2018 女子カテゴリー」開幕戦で、グループBを制したSUNS.EXEの桂葵選手がMVPを受賞した(グループAはSEKAIE.EXE深津詩織選手)。
早稲田大学4年次の2014年、関東大学女子リーグ戦、そして大学日本一となったインカレでもMVPに選出されている。卒業後は大手企業で活躍するとともに、早稲田大学のコーチも務めたが公に選手としてプレーはしていなかった。3×3に転向し、4年ぶりに大舞台に戻ってきた桂選手がいきなりMVPに選出されたのはさすがである。
大学MVPであり、桜花学園出身のエリートコースを歩んできた桂選手に対し、Wリーグから誘いがなかったわけではないだろう。だが、そのままWリーグで続けても、「バスケ選手としての成長以上のことをあまり見つけられそうになかったので引退し、社会人になりました」。長い人生を考えればその選択肢は当然であり、実際に社会人としても活躍し、メキメキと頭角を現していった。
オリンピック正式種目となり、女子プロリーグが発足する追い風が吹き始めている3×3。大学を最後に引退した桂選手だが、「バスケを嫌いになったわけではない」。3×3と出逢ったことで、「メチャクチャおもしろいです」とのめり込んでいる。先月、炎天下の中で行われたチャリティーゲームを終えたあと、空いたコートで黙々と、そして楽しそうに練習をしていた。小麦色に日焼けした桂選手は、これまで以上に……いや、これまで見たこともないほど積極的に打ち込んでいると感じた。どうやら3×3と出会ったことで、人生の転機を迎えたようだ。
これからみんなで作っていこうという気概が感じられる3×3はメチャクチャおもしろい!
ーー栄えある開幕戦を制し、MVPを獲得した率直な感想は?
うれしくて、ホッとしてます。その理由は、5人制のときもそうでしたが、いろんな人に支えられているからです。3×3はチーム内外のいろんな人のサポートによって、環境が整いはじめているところです。今日もスタッフさんはボランティアで宇都宮まで来ていただきました。それに対して唯一、私たちが応えられるのは勝つことなので、優勝できたことはその部分ですごくうれしいと感じています。
ーー3×3の魅力とは?
メチャクチャおもしろいです。3×3の魅力は、これからみんなで作っていこうという気概が選手としても感じられるし、当事者としてこの競技を盛り上げていく過程に携われることがすごくおもしろい。今は、おもしろがっていろんなことに取り組めています。
ーー女子3×3を発展させていくためのビジョンなどはありますか?
あぁ〜、それは難しい。3×3.EXE PREMIERの選手として活躍する場があるのはうれしいですが、フルタイムでバスケのことを考えているWリーグの選手たちが入って来ないことには頂点が引き上がらないと正直思います。すぐには難しくても、架け橋のようなものになれれば良いとも感じています。今日も水島(沙紀)さん(トヨタ自動車アンテロープス)が観に来てくれたようなつながりをどんどん濃くしていきながら、ゆくゆくはWリーグ選手が参加して一緒に戦えるようになって欲しいです。また、大学生を巻き込んだり、垣根なく戦える場になればもっとおもしろくなると思います。
ーーウインターカップやインカレなど学生時代は大きな舞台を経験してきた桂選手ですが、ファンに近いコートでプレーする3×3の環境はどうですか?
全然違いますよね。大舞台ももちろんおもしろいですが、今は人の体温をすごく感じています。だからこそ期待に応えたくなるし、裏切りたくないという思いが強いです。「ありがとうございます」という思いはいつも伝えているつもりですが、それだけでは返し切れていないと感じます。コート上で結果を出すことで、これまで以上にリアクションがすぐに、しかも大きく返ってくるのがうれしいし、みんながハッピーになりますね。
無鉄砲な若手だからこそできる発想
ーー3×3に懸けており、そのために異動を直訴したという話を及川GMからうかがいましたがその真相は?
なんで知ってるんですか!?(笑) 実はそうなんですよ。今は結構、生き方みたいなことを考えていますし、世間的にもその話は尽きません。デュアルキャリアとかも言われてますしね。私の同期でエベレストに誰も登ったことのないルートからアタックするために、会社を40日間休ませて欲しいと言った人がいました。しかし会社側には認められず、でもその後に退社してチャレンジしたんです。でも、なんかそれってもったいないなぁって思ったんです。3×3はオリンピック種目であり、スポーツに打ち込みたいというのは理由として健全じゃないですか。踏み出しやすいところから会社の文化も変えていきたい!
ーーおぉ!大きな目標であり、しかも大企業の組織を変える大きな志ですね。
いやいや違うんですよ。無鉄砲な若手だからこそできる発想なんだと思います。もう失うものはないんで(笑)。だからエベレストを登りたい人も、登りながら働ける方が良い会社になる。急に40日間休むことは難しいかもしれないですが、段階を追って実現できるようにしたい。その一つ目が3×3の私かな、それになれたら良いなと思って、会社に異動をお願いしました。そのおかげで今は定時で仕事を終えることができ、大学の練習に行ったり、3×3の活動をしています。仕事と両立しながら自分のキャリアを模索していきたいとすごく考えているし、それを大学生たちにも選択肢はいろいろあることをすごく伝えていきたいです。副業申請も通ったので、プロリーグとして報酬をもらえるようになりました。アスリートだけではなく、いろんなキャリアがつながっていけば、もっとおもしろい世界になるなぁってすごく思ってます。3×3を通して、そのための模索を自分自身もしていきたいし、関わってくださる方々を巻き込んで波及させていきたいです。それがバスケに復帰した醍醐味です。
ーーもちろん目標としてオリンピック選手は目指していますね?
……静かに目指しています。やっぱり心のどこかで、Wリーグの選手が行った方が良いのかなって思ってます。これは書いていただいて大丈夫です。
企業としてはワガママと取られても良いような話なのかもしれない。だが、それを許容したことが、桂選手が会社にとって必要不可欠な人材であることを証明している。SUNS.EXEのユニフォームのパンツ裾に入っているスポンサー「ばら印のお砂糖」は、会社の取引先だと言う。大企業のネームバリューだけではなく、桂選手個人としての活動をサポートしてくれていることもまた、信頼されている証である。
今、学生たちは40日間ほどある夏休み真っただ中であり、様々なことにチャレンジしていることだろう。企業や組織で働く方々も意欲的な長期休暇を与えることで、社員自身が刺激を受け、一回り成長することで会社に寄与できることもあるのではないかと感じる。バスケのオフシーズン同様、意欲的な長期休暇は成長するための大切な時間だ。そのために英断できる会社があっても良いのではないか、と考えさせられた。
3×3.EXE PREMIER 2018 女子カテゴリー[Round2]対戦カード
8月5日(日) 9:30〜12:30予定 会場:大森ベルポート(東京都品川区)
SANKAK.EXE vs SUNS.EXE
BEEFMAN.EXE vs SEKAIE.EXE
SUNS.EXE vs TOKYO DIME.EXE
SEKAIE.EXE vs TACHIKAWA DICE.EXE
SANKAK vs TOKYO DIME.EXE
BEEFMAN.EXE vs TACHIKAWA DICE.EXE
文・写真 泉 誠一