以前にも書いたかもしれないが、ボクはまだ大きな勘違いをしていた。
3×3がFIBAの認める正式な競技種目となってもなお、心のどこかでオールコートを使った5対5こそがバスケットボールの王道で、その半分のサイズのコート――実際にはもう少し狭いようだが――を使う3×3は邪道。遊びとは言わないまでも、限りなく遊びに近い、アメリカ発祥のストリートカルチャーくらいにしか思っていなかった。つまりはどこかでスポーツとして見られていなかったわけである。さらに恥を忍んで書けば、3×3でプレーするのは、5対5に夢破れたか、逆に5対5の厳しい統制から逃げた若者たち。クラブチームの延長だったり、一線を退いた者の余暇……そんなふうに思っていた。
4月29日から中国・深圳でおこなわれる「FIBA 3×3アジアカップ2018」に出場する男女日本代表が発表された。女子日本代表はWリーグを引退したOGたちで構成されている。男子日本代表は、大変失礼ながら、どこかで見たことがある、もしくは名前を聞いたことがある程度で、彼らのバックグラウンドもほとんど知らない。やはりそんなものなのか――。
しかしアジアカップに臨む記者会見で彼ら、彼女らの言葉を聞いて、ボクは3×3に対する自分の認識を大いに恥じ、改めなければならないと猛省をしている。彼らは3×3に真摯に向き合っている。アジアカップも本気で勝ちにいこうとしている。それは3×3が東京オリンピックの正式種目になったからだけではない。3×3の魅力、醍醐味を己の肉体を通じて知ってしまったからだ。
「12秒以内に攻めなければいけない」
「試合中、ヘッドコーチが指示を出せないルールのため、選手間でコミュニケーションを取り合い、攻守が切り替わるときには素早く次のプレーを決断しなければならない」
「5対5に比べると、結構なコンタクトがあってもファウルの笛がならない」
選手たちは口々に3×3の難しさを語る。いや、単なる難しさではない。それが醍醐味であり、おもしろさでもある。
ケガや年齢など、さまざまな理由で現役引退を決断せざるをえなかった女子選手たちが、時を経て「楽しいです!」と充実の笑顔を見せる。それは3×3の魅力に魅入られたからでもあろう。早くからそれに気づき、その道で努力を重ねてきた男子日本代表選手は、その奥深さにも触れ出しているはずだ。
男女日本代表のオペレーションチーフである日本バスケットボール協会の金澤篤志氏は、バスケットボールをひとつの家にたとえ、5対5と3×3をそれぞれ”部屋”とし、いろんなカテゴリーの選手がそれらの”部屋”を行き来できるようにしたいと言っていた。それは今後、現役のBリーグ選手やWリーグ選手が3×3に出ることも可能になることを示唆する。トップ選手だけでなく、大学生や高校生らも3×3で個のスキルを磨き、それを5対5に生かしてもいいし、3×3に自らの未来を見出してもいい。つまり3×3はバスケットに生きたい若者たちの新たな選択肢になるわけだ。
ここまででも3×3を愛する読者諸氏には十分に失礼な表現が多かったと自認している。しかし失礼ついでにもうひとつ言わせてもらえば、アジアカップに臨む日本代表選手の平均年齢は男女ともに少々高い気がする。しかし黎明期はそれでいいのかもしれない。彼ら以前にも、それこそ3×3が「3on3」と呼ばれていた時期から3人制のバスケットに打ち込み、プロとしてさまざまなイベントを開催していた人たちはいる。正確には彼らが日本の3×3のパイオニアなのだろうが、FIBAの正式な競技種目になって以降、その道を切り拓こうとしている彼ら、彼女らがいて、それを追い落とそうとする次世代の若者が続き、道を踏み固めていく。その次の世代、またその次の世代とつながっていけば、そのころにはボクのような頭の凝り固まった先入観を持つ人々は少なくなっているだろう。
MCの軽妙なトークとDJの絶妙なサウンド。これも3×3の妙味だそうだが、記者会見では、MCとDJが軽いパフォーマンス的なことをしてくれてはいたものの、もうひとつ掴めなかった。これはやはり一度現場で生の3×3を見るしかない。
これまでも3人制のバスケットは何度か見に行ったことがある。上記のプロのイベントである。それはそれでおもしろかったのだが、のめり込むまでには至らなかった。今度はどうだろう?
どうなるかはわからないが、1つだけ言えることはある。
かつてのプロもそうだったように、男女日本代表の計8名もみんな3×3を楽しんでいる。練習ではコーチにとやかく言われるだろうが、試合になれば自分たちですべてを決めていかなければいけない。選手たちはそのことに多少の不安を覚えながらも、嬉々としてコートに立ち、そして自分を解き放って、相手に立ち向かう。すなわち3×3は自己解放のスポーツなのである。
次に試合会場に行ったら、そんな視点で3×3を見てみたい。MCとDJが織りなすサウンドにも耳を傾けながら――。
FIBA 3×3 アジアカップ2018 日本代表メンバー
オペレーションチーフ:金澤篤志
アドバイザリーコーチ:長谷川誠、中祖嘉人
【男子日本代表選手】
鈴木 慶太(Team TOKYO)
小松 昌弘(Team TOKYO)
落合 知也(Team TOKYO)
野呂 竜比人(Team TOKYO)
【女子日本代表選手】
立川 真紗美(元JX-ENEOS〜富士通 元日本代表・2004年アテネオリンピック出場)
名木 洋子(元シャンソン〜富士通 元日本代表)
前田 有香(元アイシンAW)
石川 麻衣(元富士通 元日本代表)
文・写真 三上太
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