ただ、身勝手な欲を言えば、オフェンスでは彼女の野性味を見たい気もする。
チームでプレーする日本の良さに、その日本で「規格外」とされる彼女だからこその荒々しいアタック。
本シリーズの第1弾で書いた周りを見られる冷静さと、一方で規格外の彼女だからこそ生まれる情熱の間をうまく行き来させたとき、東京2020オリンピックにはなかった新しい日本のバスケットが見えるのではないか。
そんなことを思ってみたりする。
「自分自身に自信がないわけじゃないし、もっとできるって思っているので、1回のチャンスをものにしたい。今日も数は少ないけど、1回あった自分のプレーでパスミスしてしまったので……そこは自分で行くべきなのか、外にパスを出すべきなのか、すごく迷いながら始めた1対1だったから良くなかったのかなとか。そういった数少ないチャンスをしっかりとモノにしていかないと世界では勝てないんだなっていうのを感じているので……明日はやります」
彼女もまだ新しい日本のバスケットにフィットできていない。
だからこそ、期待もしてしまうのだ。
無駄な牙は抜いても、必要な牙だけはしっかりと研いでおいてほしい。
アップデートされた野生児を世界の舞台で見てみたいと思うのである。
スーパードームに戻ってくると、中国がプエルトリコを一蹴し、きょうの最終戦、オーストラリアとカナダの試合が始まるところだった。
ゲームはもつれた。
第1クォーターをカナダがリードすれば、第2クォーターでオーストラリアが逆転。
第3クォーターでカナダが逆転すると、オーストラリアも追いつくが、最後の最後でまたカナダが突き放す。
第4クォーターに入ってもお互いの意地がぶつかり合う。
しかし最後はオーストラリアが一歩だけ抜け出した。
<75-72>
オーストラリアの勝利である。
勝利の立役者はエジー・マグベガー。
次世代のエースと目されている193センチの23歳である。
きょうのゲームを含め、これまでもいくつかのポロリをしでかしていたが、きょうは随所にその片鱗を覗かせていた。
すでにWNBAのシアトル・ストームに所属しているが、この大会をきっかけにして、さらに世界的な選手になっていくのかもしれない。
試合後のコートでは即席のサイン会、即席の撮影会が始まっている。
選手たちが観客席の最前列まで行き、柵越しにそれらをやっているのだ。
ホームコートの雰囲気を作ってくれたファンへの、心ばかりのお礼であり、彼女たちにとっては当たり前のことなのかもしれない。
そうした交流がまた、オーストラリアを強くするわけだ。
オーストラリアの勝利は、日本の予選グループ敗退を意味するのだが、そんなことさえ忘れさせる素晴らしい勝利、素晴らしいゲーム後の光景だった。
星取り勘定では見えない光景が、バスケットコートにはある。
FIBA女子ワールドカップ2022「G’Day Straya!!」
4日目 父も、母も、そして娘だって懸命に咲いている
5日目 星取り勘定では見えない光景
6日目 はじまりはいつも雨
文 三上太
写真 FIBA.com