── そのモントリオールから44年。来年の東京オリンピックに男子日本代表が出場します。
44年、長かったですよね。けれど、それは単に日本の強化が遅れたというだけでなく、オリンピックそのものが変化したことにも要因があると僕は思っています。このこと、語ってもいいですか?
── どうぞ存分に語ってください。
まず昔はオリンピックはアマチュアの祭典と言われていて大会を商業化しちゃいけないとされていました。たとえば僕たちが出たモントリオールオリンピックは国の援助はあったにせよ大半はモントリオール市民の税金を使って開催され、その借金が全額返せたのはつい最近のことだと言います。つまりオリンピックのためにこしらえた借金を返すのに40年以上かかったわけです。そんな状況を見たら開催国に立候補するのをどこもためらいますよね。そこで選手、広告、スポンサーを含めオリンピックを商業化したのがロサンゼルスオリンピックです。その代表選手が陸上のカール・ルイスじゃないかな。テレビ放映権の収入もあってオリンピックが一気に黒字になった。
それを加速させるために白羽の矢が立ったのが世界的に人気のあるバスケットです。NBA選手で結成されたドリームチームが出場したバルセロナオリンピックはひと目マイケル・ジョーダンを見たいと熱狂的ファンが押し寄せました。一般客だけでなく、対戦チームの選手までジョーダンと写真を撮って興奮していたくらいですから、世界中でバスケットが注目されたわけです。当然、対戦したチームの中にはNBAを目標にする選手も出てきたし、テレビを見てNBAにあこがれる子どもたちもたくさん現れてバスケットの人気が一気に上がり、同時にそれが海外のバスケットのレベルを大きくアップさせる要因になった。バスケットの大きな波ですよね。
ただ残念なことに日本はその波に完全に乗り遅れてしまった。バスケットに関していえば世界から取り残されてしまったと思うんですね。もちろん国内でゴタゴタが続き、強化する環境が整わなかったのも大きな要因であることに違いないですけど、それだけではなく、一気に加速した海外のバスケット熱とそれに伴う強化について行けなかったことも無関係ではないと僕は思っています。けどね、そのことに気づいたなら全力で立て直しを図ればいい。今がそのときですよね。日本に射してきた光についてはひと休みしてからまた語りますよ(笑)
part4へ続く
「僕はこれからの日本のバスケットが楽しみでならないんです。」
文 松原貴実
写真 沼田侑悟