今ほどバスケットの男子日本代表が注目されている状況、というのもこれまでなかったのでないだろうか。
日本国内最高峰の統一プロリーグであるBリーグができて3年目、Bリーグをサポートしているファンは同じように代表の活躍にも注目しているだろう。
2年後には東京オリンピックを控えているということもある。オリンピックに出場することは、そのチャンスを持つ競技者にとっては一つの到達点だ。
そして日本の国旗を背負って戦うアスリート、チームジャパンを見ることは、その競技を応援している人々が何より望むことでもある。
さらにオリンピックに出場することでそのスポーツが享受する恩恵というものもまた、計り知れない。その競技関係者のアスリートに対する期待も大きくなるのは言うまでもない。
男子バスケットボール界にとって現状、今戦っているワールドカップ予選を勝ち抜いて本戦に出場することが、東京オリンピックに出場できる条件のようにいわれている(実情は定かではないが、日本は開催国にも関わらず未だ出場権を確約されておらず、その条件をFIBAから提示されているという話がある)。
この日ホームの富山市総合体育館で対戦したカザフスタンは、来年2月に行なわれるWindow6の結果によっては予選終了時の戦績で並ぶ可能性のある相手であり、予選残り2ゲームがアウェーでの戦いであることを考えると、何としても勝っておかなければならない相手だった。
これまでのゲームももちろん「何としても勝っておかなければならない」ゲームだったが、Window1の連敗から初勝利を期して戦ったWindow2でも、ホームでのチャイニーズタイペイ戦を落とし、アウェーのフィリピン戦も接戦の末負けて4連敗。
いいゲームをするがどうしても勝てない。この時点では、まさに崖っぷちに背面でつま先立ちをさせられているような状況に陥っていたわけである。
だが、それからの日本代表の躍進ぶりは皆さんご存じの通りだ。
Window3ではニック・ファジーカス、八村塁ら新戦力の活躍もあり、ホームでアジアナンバーワンの強豪であるオーストラリアを撃破し、続くチャイニーズ・タイペイ戦は40点差での勝利と圧倒した。
アウェーのWindow4では八村と同じくアメリカを主戦場とする渡邊雄太も加わり(ファジーカスは怪我の治療のため不選出)、カザフスタンに続き中東の雄イランにも連勝と、完全にいい流れができていた。
日本代表に何が起こったのか。
これまでの日本代表と何が違うのか。
Window2まではいなかった新戦力の登場は決定的だ。ファジーカスはまさに救世主と呼ぶに相応しい活躍で日本を勝利に導いている。
だが日本チームとして見逃せない変化はメンタリティについての変化ではないだろうか。
連勝のきっかけとなったオーストラリア戦では、あれだけドライブしまくる日本を、そこでつぶされることもシャットアウトされることもなく、果敢にフィニッシュまでいく日本を初めて見たように思った。
フリオ・ラマスのペイントタッチに行くという戦い方を選手が実行したからだが、それができるタレントがいたこと、そしてその選手が思い切りよく自信を持ってプレーしたことが重要だった。
たとえそこで決めきることができなくてもファールをもらえることが分かった。そのことで自信はさらに大きくなり、よい循環を生み出す要因になっていたように思う。
インサイドに圧倒的な安心感を与えられるファジーカスという存在を得て、ペリメーター陣がのびのびとプレーするようになったこと、その結果得た自信というのはことのほか大きい。
だがこの日のカザフスタン戦では、ファジーカスのいない時間帯にオフェンスが停滞するんじゃないかという心配が、実は筆者にはあった。
ファジーカスは、日本で最強の外国籍助っ人から最強の帰化選手となり、今やアジアのインサイドを席巻しつつある。
インサイドにアドバンテージがある以上それを強調するのはセオリーだが、そればかりでは対策されてしまう。
いくら最強でも毎試合40分出続けることはできないし、たった一人か二人の選手に頼り切りになるようなチームが、国際試合で連勝できるはずかない。
そのときに誰が行くのか、誰が点を取るのか。
その命題に対する答えはやはり比江島だ。
アジアの強豪を相手に「ファールをもらってよかった」ではなく、ドライブから決めきることができ、更にそこから決定的なパスも出せる日本で唯一の選手といっていいだろう。
そのことを比江島は分かっているし、その自信を持っているはずだ。
そして結果的には比江島だけではなく、田中も馬場も、代表のユニフォームを着た選手それぞれがそれを持つに至ったのではないか。
「誰もが」行くべきところで「自分が行く」という責任とそれを遂行する自信が、この日の代表には溢れていた。
特に地元富山での凱旋ゲームとなった馬場は躍動し、この日のゲームで202cmのジグリンの上から叩き込んだダンクは、世界中で行なわれたワールドカップ予選Window5のベストプレイにFIBAが選出したほどだった。
本誌の次号のテーマになっている「バスケ界のスター」でも当然名前の挙がった馬場だが、ここでもそのポテンシャルを見せつけたわけである。
この日のゲームについても、中盤までは競った展開だったが日本が負けそうだというイメージはほぼわかなかった(竹内譲次がテクニカルを取られファウルアウトしたときはちょっとギクッとしたが…)。それは選手一人一人が自信を持ってやるべきプレーをイメージしそれを実行できていたから、ということではないか。
ここで手に入れた大きな武器ー自分たちのやりたいプレーがやれるというメンタリティ、どこが相手でも戦えるという自信ーはこの先も大きな意味を持つだろう。
かくして我らが日本代表、アカツキファイブはアジアの舞台で6連勝を果たした。
来年2月のアウェー2戦で、ワールドカップ出場権が得られるかどうかがとうとう決まる。
もちろんそれは東京オリンピックに続く旅路の第一歩となるはずだ。
アカツキ・ファイブには2連勝して、大いなる旅路の大いなる一歩を踏み出してもらいたい。
文・写真 吉田宗彦