今大会、吉田亜沙美が実に楽しそうにプレイしている。誰よりも勝利のどん欲で、勝つためなら一切の妥協を許さず、味方の不用意なプレイにはコート上であっても容赦なく叱りつけ、ときに苦々しい顔も見せる吉田が、アジア選手権では常にスッキリとした表情でバスケットをしているのだ
女子バスケのアジア選手権・準決勝、日本はチャイニーズ・タイペイと対戦し、【74-56】で勝利を挙げた。日本のアジア選手権・決勝進出は、2004年以来、9年ぶりのことである。
この試合でも吉田は楽しそうにプレイをしていた。その要因を吉田は「チーム力が上がってきていること」だと言う。
「ポイントガードをやっていてもこのチームは本当に強いなって思うんです。ディフェンスで自分が前線からプレッシャーをかけると、周りがついてきてくれるのもすごく伝わってくるし、そこからファストブレイクを出すときもセンター陣がしっかり走ってくれています。ウイング陣もしっかり走って、自分のシュートを打てる位置で必ず待ってくれているし、そういったコート上の5人の信頼関係が、このアジア選手権に入ってさらに強くなったように思います。そういったチーム力がすごく上がってきていて、試合を重ねるごとに『これならできる』、『これなら勝てる』って思うんですよね」
日本には吉田以外にも大神雄子、間宮佑圭、渡嘉敷来夢といったアジアでもトップクラスのタレントがそろっている。しかしそれらが個々に動いたのでは勝利をつかむことはできない。それぞれがそれぞれを信頼し、ときに犠牲になることでチームはチームとしての力を発揮するわけだ。今の日本はそうした信頼関係が試合を重ねるごとに強く結びついて、これまでにないほどの強力な力を発揮している。吉田が楽しそうにしているのはそうした理由からである。
「それに若い子たちが頑張ってくれているので、自分ももっと頑張らなきゃとも思うんです。間宮や渡嘉敷が厳しいマークの中でも『自分がポイントゲッターだ』と自覚して、面を取って、それを確実に得点につなげてくれています。やはり彼女たちはチームにとって必要な2人だと思うし、ウイング陣が積極的に走って、3ポイントを狙って、ドライブをしてくれるのも頼もしい。今はこのチームが一番楽しいかなって感じています」
自分が頑張ることで周りが刺激され、その周りの頑張りにまた吉田が刺激される。吉田とは意気に感じるプレイヤー、つまりは純粋なプレイヤーなのである。
2005年から日本代表に名を連ねている吉田にとって、アジア選手権の決勝戦の舞台に立つのは初めてのこと。
「ここまで8年かかったんですけど、その8年は無駄じゃなかったし、むしろその8年があったからこそ、今、こうしてこの仲間たちと内海(知秀)ヘッドコーチのバスケットでアジアの決勝に立てるのはすごくうれしいです。でもまだ目標はもう1つ達成していないので、明日の韓国戦に勝って、表彰台の1番上で日本の国歌を歌って、胸を張って帰りたいです」
来年トルコでおこなわれる世界選手権への切符は手に入れた。でもそれで終わりではない。今大会の日本代表は「優勝」を目標に掲げている。そのことを忘れてはいけない。
8年のときを経て、最高のチームメイトを得た吉田が明日、今大会最後の戦いに挑む。
女子日本代表のアジア選手権・予選ラウンド対戦スケジュール
10月27日(日)日本 94-59 カザフスタン
10月28日(月)日本 69-57 チャイニーズ・タイペイ
10月29日(火)日本 78(OT)71 韓国
10月30日(水)日本 81-40 対インド
10月31日(木)日本 62-55 中国
11月2日(土)準決勝 日本 74-56 チャイニーズ・タイペイ
11月3日(日)決勝 日本 vs 韓国
*すべてタイ時間。日本との時差:マイナス2時間。例)日本22時=タイ20時
JBA:第25回FIBA ASIA女子バスケットボール選手権大会特設サイト
文・三上太