記者会見の途中、男子日本代表の比江島慎が何度も首を振っていたのは、彼自身が認めるとおり、最後の最後で相手に3ポイントシュートを決められたからだろう。
「3点差に迫ったところでスイッチをしたジェイソン・ウィリアムに3ポイントを決められてしまって……(ベンチからは)『ノースリー(3ポイントシュートを打たせてはいけない)』と言われていたのにやられてしまって、そこは悔いが残っています」
敗因はもちろんそれ一つではない。しかしフィリピンのポイントガード、ウィリアムに決められた、その3ポイントシュートは確かに日本にとって痛かった。あれで勝利がすり抜けていったのも、ひとつの見方として間違いないだろう。
第4Q残り1分16秒。その直前まで【69-72】だったスコアボードが【69-75】に変わったのである。
2019年に中国でおこなわれる「FIBAバスケットボール ワールドカップ2019」。その出場権をかけたアジア地区一次予選が始まり、駒沢体育館でおこなわれた初戦で日本はフィリピンに敗れた。最終スコアは【71-77】である。
けっして勝てない試合ではなかった。序盤こそフィリピンの元NBA選手、アンドレ・ブラッチの高さに怯むような場面もいくつかあったが、徐々に日本の組織的なディフェンスが機能し、フィリピンの粗が目立ち始める。
しかし日本もシュートを決めきれず、流れに乗っていけない。
その流れを一変させたのがベンチスタートの比江島だった。
「(日本のフリオ・ラマス)ヘッドコーチはペイントエリア内にアタックすることを好むので、僕が出たら絶対にゴールにアタックしようと思っていました。外から単発に打つんじゃなくて、しっかりと中へアタックしていこうと決めていたので、それがうまくいって日本にいい流れをもたらせられたのはよかったと思います」
まもなく配布される本誌15号にそのルーツが記されている比江島のドライブが、停滞する日本のオフェンスに新しい流れを呼び込んだのである。
しかしフィリピンは、比江島一人の力でどうにかなるような相手ではない。
だからこそ、比江島に続く選手がもっと出てきてもよかった。
比江島がそれをするまでも、スタメンの竹内譲次が積極的なアタックを見せていた。ラマスヘッドコーチから「ブロックをされてもいいから積極的に行け」と言われ、最低限それはやろうと決めていたそうだが、残念ながらシュートまでの工夫と判断のスピードが遅く、ブラッチのブロックの餌食になるばかりだった。
同じくスタメンで、思い切りのよいランニングプレイが持ち味の馬場雄大も、「アタックしようと思ったが、流れを見て消極的になってしまった」と、その陰を潜めてしまっていた。所属チームでも一緒にプレーする竹内がブロックされて、二の足を踏んでしまったのかもしれない。
田中大貴に至っては――アルバルク東京の選手が3人続いたのは単なる偶然である――第1Qだけで2つのファウルを犯し、第2Qの残り5分46秒までにさらに2つのファウルを積み上げ、アタックさえできにくい状況に陥ってしまう。
いや、田中に関しては4つ目のファウルを犯した直後、左コーナーから猛然とドライブし、相手のファウルを誘っている。これはよかった。
フィリピン戦のポイントの1つはそこだったように思う。
アタックの有無、ではない。
ゴールへのアタックがもう一歩中へ踏み込めていなかったことだ。
比江島は踏み込めていた。
だからこそ得点も取れたし、ファウルも取ってもらえていた。
しかし田中や馬場はゴールにアタックしながら、もう一歩が踏み込めない。
踏み込めないから、体を寄せられたディフェンスに守られ、キックアウトのパスをひっかけられ、ファウルさえも取ってもらえない。
富樫や篠山も然りである。
一方のフィリピンの選手たちは狭いスペースに飛び込んでもボールを失わない自信があるのか、それとも多少ひっかけられてもいいというメンタルなのか、どんどんゴール近くまで飛び込んでくる。
だからチャンスを生むし、ファウルももらえる。
何も無謀に飛び込んでいけというのではない。
ドライブに行くと判断したときに、今日よりももう一歩中に踏み込んでみてはどうか。
つまりはやりきる、やり抜くということである。
試合後、田中は国際基準の笛について、こう言っている。
「アタックしたもん勝ちというか、接触しただけで笛が鳴る。日本のゲームと違って、オフェンス側が有利なのかなと思います。自分たちは出だしにブロックされて、躊躇してしまうところがありましたけど、それとは関係なしにどんどんアタックすれば、相手もファウルを吹かれたと思います。だから多少強引でもアタックすることは大事なのかなと」
強引なアタックも大事だが、もっと大事なのが「もう一歩中へ」である。
もう一歩中へ踏み込むことで、ディフェンスとの間合いが狭くなる分、シュートの工夫は必要になるが、得点のチャンスは増える。
もう一歩中へ踏み込むことで、たとえシュートが決まらなくてもファウルの笛を聞くことはできる(かもしれない)。
もう一歩中へ踏み込むことで、ヘルプディフェンスとの距離は狭まるが、その分アウトサイドへのキックアウトがより有効になる。
そのどれもが今よりも高い個々の技術やフィジカルの強さなどを求められるが、それ以上に求められるのは「もう一歩中へ」の“勇気”である。
フィリピンに惜敗した初戦の今なら、十分に取り返しはつく。
勇気をもって、もう一歩中へ踏み込んでほしい。
日本のワールドカップ2019アジア地区予選の第2戦・対オーストラリアは、11月27日(月)17時30分(日本時間)、オーストラリア・アデレードのチタニウムアリーナでティップオフされる。
文・三上 太 写真・安井 麻実