これもBリーグ誕生の成果なのだろうか。川崎ブレイブサンダースの永吉佑也が変わってきている。本人にそう向けると「髪型のせいっすかね?」とおどけるが、稀勢の里関にインスパイアされた髪型のせいだけでは、もちろんない。今、永吉はこれまでにないほどの充実感と、自信をたぎらせている。
Bリーグの初代チャンピオンを決めるファイナル、永吉がコートに立ったのはわずか1分21秒。その間、スタッツに残るプレーは栃木ブレックスのライアン・ロシターに犯したファウルだけ。むろん数字に残されていないプレーもあるが、ほぼ何もできないまま、ベンチに下がり、チームの敗戦を見守るだけに終わった。
それから3日後、永吉の姿を味の素ナショナルトレーニングセンターで見つけることができた。男子日本代表候補による、「東アジアバスケットボール選手権大会2017(以下、東アジア選手権)」直前の強化合宿である。
「(Bリーグでは)ファイナルまで進出して、自分のコンディション的には悪くないけど、リーグ戦の後半からチャンピオンシップにかけて、試合に出る機会が減っちゃったせいで、試合勘が薄れているのは自分でも感じています。今はそこを調整するのに苦労しているところですね」
その時点ではまだ大会の最終ロスター(ベンチ入りできるメンバー)は決まっていなかったが、翌日の午後、永吉は正式に東アジア選手権の日本代表にその名を連ねることになった。
永吉は、自身の考える東アジア選手権の位置づけを3つ挙げてくれた。1つはBリーグ誕生で盛り上がりを見せる日本のバスケット界を、東アジア選手権で活躍することでさらに盛り上げようとすること。2つ目は東アジア選手権が今後の大会、つまり8月にレバノン・ベイルートでおこなわれる「FIBA アジアカップ2017」や、11月からスタートする「FIBAワールドカップ1次予選」にもつながる大切な大会として、勝ちにこだわらなければならないこと。そして3つ目は個人的な思いが詰まったものでもあった。
「ルカ(・パヴィチェヴィッチヘッドコーチ)と一緒に戦うのは、多分これが最後になると思うんです。彼のバスケットが僕にはすごく勉強になったし、実際にシーズン中の重点強化合宿で教わったことをチームにも持ち帰りもしました。だから今大会でもなるべく多くのことを彼から吸収しようと思っているから、1秒たりとも時間を無駄にしたくないんです」
東アジア選手権からFIBAアジアカップに進めるのは6チーム中5チーム。これまでの戦績を考えれば、日本がそれに出場できない1チームになることは、ほぼ考えられない。そんな大会でも、日本のバスケット界隆盛のため、今後の大会への弾みをつけるため、そして自分自身のレベルアップのために、永吉は全力で臨もうと考えている。
彼がパヴィチェヴィッチヘッドコーチから求められるのは、ディフェンスでは相手のスクリーンプレーに対して、スクリーナーを守ることの多い彼らビッグマンが、ガード、もしくはフォワードとの2対2だけで、そのディフェンスを完結させること。つまりほかの3人のヘルプディフェンスをなるべく使わず、ローテーションを起こさないことで、相手のチャンスを作らせないようにしようというわけだ。
一方のオフェンスではスクリーナーとしての役割が大半を占める。だからこそ、永吉はパヴィチェヴィッチヘッドコーチに出会って初めて、と言っても過言でないほど、スクリーナーとして「意識的になれた」と言う。
「学生のころは何となくポストプレー一辺倒だったのが、プロになってオフェンスの循環を意識し始めたときに、チームオフェンスとは何かと考え続けていたんです。そんなときにルカから細かく指導を受けたことで、何か1つの答えを得たように思います」
ピック&ダイブでも、ピック&ポップでもスクリーンをかけたあとの動きをいかにしっかりと行うか。中途半端な動きは許されない。スクリーナーがその後の動きをはっきりと示すことで、ユーザーはもちろん、他のオフボールマンたちも、そのアクションに対するリアクションができる。これまでもピックプレーをしてこなかったわけではない。しかしその後のアクションがどこか感覚的だった永吉は、意思を持ってはっきりと動くことでチームオフェンスがよりスムーズになると、パヴィチェヴィッチヘッドコーチのもとで気づいたわけである。
「これがルカの求めている“世界基準”なんです」
日本のビッグマンは2006年以降、おもに竹内公輔・譲次の兄弟と、太田敦也が担ってきた。いずれも206~207センチで、文字どおりのビッグマンだ。しかし永吉の身長は198センチ。スモールフォワードの小野龍猛、パワーフォワードの張本天傑とは1センチしか変わらない。世界の強豪国ではあまり多くは見られない、“小さなビッグマン”である。それでも彼は自分が日本の次世代のビッグマンを担うのだとはっきり自覚している。
「Bリーグにはほかにも日本人のビッグマンがいるけど、そのなかで僕が今、こうして日本代表に選ばれていることは、それなりに期待されているからだろうし、その責任を感じています。もちろん身長に対する指摘もあると思いますが、ルカのバスケットはその問題を解消してくれるシステムを持っていると思うんです。ルカが以前いたチームの試合映像を見せてもらったんですけど、それほど大きな選手がいるわけでもなかったので、そういう意味でも、僕でもまだやれる可能性はあるのかなって感じています」
今シーズンの川崎でプレイタイムが伸びなかったことは、けっして「いい思いはしなかった」と言う。しかし「今のチーム事情、選手の構成を考えると仕方がないというか、外国籍のビッグマンを起用したほうが勝つ可能性は高くなるよね、とは思っていました」とも認める。だからこそ日本代表で、たとえサイズは劣っても活躍できることを示して、来シーズン以降のBリーグ、そしてこれからの日本代表活動にもつなげていきたい。
「そう考えていたからBリーグでプレイタイムが減ったときも、この期間に日本代表活動があると思うとモチベーションは下がりませんでした」
コート上でやるべきこと、そして自分が目指すべき方向性が明確になったことで、永吉はこれまで以上に自信を持ってバスケットに取り組んでいる。Bリーグの誕生と、一人のコーチとの出会いが、永吉をそのサイズ以上に“大きな”ビッグマンに変えようとしている。
文・写真 三上 太