現在、女子バスケットボール日本代表はヨーロッパ遠征をおこなっている。スペインからスタートし、今日あたりはマケドニアにいるのだろうか。その後、セルビアに入る約2週間の遠征である。
出発前、チームを率いるトム・ホーバスはこう言っていた。
「ヨーロッパでは結構ゲームがある。スペインでカナダ代表とスペイン代表、マケドニアではトーナメントに出場するので2~3試合かな。セルビアではセルビア代表と3試合する予定。今練習しているオフェンスも、トランジションもまだ自然な流れになっていない。ディフェンスはまぁまぁできているけど、オフェンスのタイミングを合わせることはこれから。ヨーロッパではそこをうまくなりたい」
果たしてスペインでのカナダ戦は【56-61】、スペイン戦は【51-67】。強豪国を相手に失点は及第点だろうが、やはり得点はまだまだやり残していることが多そうだ。
このヨーロッパ遠征に先んじておこなわれたアメリカ遠征については、ホーバスも、キャプテンの吉田亜沙美も「いい経験ができた」と口をそろえる。
ホーバスの言葉。
「最初に試合をしたダラス・ウィングス戦はあまりよくなかった。時差ボケなのか、気持ちが足りなくて、プレーが甘かった。試合の後、すごく怒ったよ。『これは日本のバスケットじゃない。何をしているんだ!』ってね。それで選手の考え方とプレーが変わった。アメリカに行く前より、いいチームになって帰ってきた。うまくなったよ」
アメリカではダラス・ウィングス以外にも、サンアントニオ・スターズとフルゲームをおこない、前半を終えたところで2点のビハインド。最終的には15~17点差で敗れたものの、第4Qの途中で競り合うなど、練習の成果が垣間見えるゲームとなった。その後、シアトルに移動し、渡嘉敷来夢のいるシアトル・ストームとは練習の中で5対5などをおこなった。
吉田の「いい経験」はもう少し具体的だ。
「ボックスアウトの当たり負けを肌で感じました。自分たちをレベルアップさせるためにはリバウンドが必須で、トムも『リバウンドを取れなければ、オリンピックでメダルは取れない』と言っていたので、そこはみんなで意思統一をして、練習に取り組んでいます」
リバウンドは体格に劣る日本の絶対的なウィークポイントであり、“永遠のテーマ”でもある。リオデジャネイロ五輪で8位に入賞したとはいえ、その後に国内リーグを挟むと、リバウンドやボックスアウトの意識、感覚はどうしても薄まってしまう。それを改めて意識させるためのアメリカ遠征でもあったというわけだ。
むろん、海外遠征はそのような体格差を実感するためだけの遠征ではない。多くの選手が語り、練習を見るだけでもわかるほど、ホーバスのバスケットは細かい。スクリーンの角度や動き出しのタイミング、ディフェンスで体をどの方向に向けるべきか、といったところまで、細かくチェックが入っていく。それを練習するだけでなく、ゲームのなかで実践的に体に染み込ませるための遠征でもあるのだ。
そんな細かさを歓迎している選手がいる。髙田真希である。
「今まで自分が教わってきた指導者と違うのは、これまでは結果がよければ何となくごまかしてOKだったところが、トムは結果がよくても、そこに至るプロセスがダメだと許してくれない。そこが決定的に違うかな。結果に行き着く前に注意されますから」
その具体例として、高田は「ヒット・ファースト(Hit First)」を示す。自分から相手に接触しに行って、有利なポジションを先に確保するという考え方だ。これは吉田が語り、日本の永遠のテーマでもあるリバウンドに大きな影響を持つ。
これまでは身長差が大きくて、リバウンドを頭の上から取られることを、仕方がない、どうにもならないことだと思っていた。選手だけではない。スタッフもどこかで体格差を諦めていたところがあったのではないか。髙田はそう考えている。しかしホーバスの指摘でそれではいけないと気づかされた。
「実際にビデオを見返すと、自分たちが接触に行っていないから、相手に取られていたんです。身長差で負けていたのではなく、自分たちが接触しに行っていないから負けていたわけです」
ならば、自分たちが「ヒット・ファースト」を実行すれば、世界で勝てるチャンスが広がるのではないか。実際に今年度の女子日本代表では、相手の身長がどれだけ高かろうが、パワーが強かろうが、ポジションも、リバウンドも取られるのは絶対にダメだという雰囲気が漂い始めていると髙田は認める。
リバウンドを取れたらOKではない。ヒット・ファーストで相手によいポジションを取らせず、そのうえでリバウンドが取れたらOKなのだ。そうした些細な動きまで追求するホーバスのバスケットをしていればアジアカップ――今大会から名称が変わる。以前のアジア選手権――3連覇も十分に可能だと、髙田は自信を持って言うのだ。
「今の日本には小さくて、細かい変化が一番重要なのかなって思います。そこを埋めていけば、何かが大きく変わっていったり、他のことにもいい影響が出るんじゃないかなって思うんです」
7月23日からインド・バンガロールで開催される「FIBA 女子ASIAカップ」に向けて、いや、その3連覇に向けて、女子日本代表は準備を着々と重ねている。リオデジャネイロ五輪で8位に入賞した彼女たちが、2020年の東京五輪でメダルを獲得するために、どのように進化していくのか。その過程を追いたい。
文・写真 三上 太