文・松原 貴実 写真・吉田 宗彦 / 三上 太
6月23日、OQT(FIBA男子オリンピック世界最終予選)に出場する男子日本代表メンバー12名が発表された。6月6日には女子のリオ五輪出場内定メンバー12名も発表されており、これで男女ともに世界に挑戦する選手が確定したわけだ、
もともと能力が高い候補選手たちの中から12名に絞るのは容易なことではない。内海知秀ヘッドコーチ(女子)も長谷川健志ヘッドコーチ(男子)も恐らく決定を下す直前まで迷い、悩み、葛藤したのではなかろうか。
「うれしさより責任を感じた」(三好南穂)
女子最終メンバー決定記者会見で12名の名前を読み上げる内海ヘッドコーチの表情は心なしか少し固いようにも見えた。昨年のFIBA ASIA(アジア選手権)で優勝しリオ五輪の出場権を手にした後、凱旋パーティーの会場で「この選手たちが勝ち取った出場権なのだから、正直本番には全員連れていってやりたい気持ちはあります」と、語った内海ヘッドコーチ。ただ、それは“思い”であって“約束”ではない。そのことはチームの誰もがわかっていたことだ。
発表の当日、ヨーロッパ遠征から午前9時に帰国したチーム(選手18名)はそのまま都内のホテルに移動し、11時半に会議室に集まった。内海ヘッドコーチがその場で最終メンバー12人の名前を発表していく。選ばれた者はその後記者会見に出席し、外れた6名は荷物をまとめてそれぞれ帰路につくことになる。ほんの数時間前までチームメイトであったのに、この先の道が大きく分かれるのだ。
アジア選手権大会優勝メンバーからは三谷藍、山本千夏、篠崎澪の3名が落選。優勝までの道のりをともに戦った選手たちは部屋を去る3人にどんな言葉をかけてよいのかもわからず、ただその肩を抱くしかなかった。「いろんな思いが込みあげてどうしようもなく涙が出ました」(間宮佑佳)
また、それとは少し違った思いで去る者の背中を見つめていた選手もいる。ガードの三好南穂。いわば落選した選手に代わって選ばれた1人だ。
「自分が最終メンバーに選ばれる自信は全然ありませんでした」
直前の遠征ではセルビア戦に10分出場して13得点、トルコ戦には3分出場して3ポイントシュートを1本、ベンチメンバーが主体となったニュージーランド戦では30分出場して18得点とそれなりの結果は出せたという手応えはある。だが、吉田亜沙美、町田瑠唯に次ぐ3番目のポイントガードは「私ではなく藤岡(麻菜美)さんが選ばれると思っていました。ゲームでの起用のされ方もプレータイムも私は4番手でしたから」
持ち味が異なる2人のガードはどちらの実力が上で、どちらが劣っているというわけではない。ただ本番でサイズのある外国勢と戦うためにはアウトサイドシュートの充実が重要となる。それを踏まえ、内海ヘッドコーチが選んだのはヨーロッパ遠征で果敢に打ち、精度の高いシュート力を発揮した三好だった。
「自分の名前が呼ばれたときは喜びというより驚きが先でした」そのあとに目に映ったのは落選した選手たちの背中だ。「去年のメンバーもそうだし、藤岡さんもそうだし、残れなかった人たちの背中を見た時、言葉にならないような気持ちになって、(自分が選ばれた)嬉しさより選ばれたことの責任を感じました」
選ばれたことの責任――三好がそう口にした思いは、三好とともに最終メンバーの新しい顔となった近藤楓、長岡萌映子の胸にもあっただろう。同様に、去る者の背中を見送ったすべての選手たちの胸にもあったはずだ。「それだけは決して忘れないよう」(三好)ユニフォームの胸のあたりを時々ギュッとつかんで、リオの舞台に挑むつもりだ。
「大貴の落選はめちゃくちゃショックだった」(比江島慎)
男子代表チームが最終選考を兼ねたアトラス チャレンジ(6月14日~19日・於中国)に出発する前、松井啓十郎は「この大会で自分をどれだけアピールできるかが勝負になる」と語った。彼の持ち味はクイックリリースのロングシュート。『落ちない3ポイント』で場内を沸かすことも珍しくない。「でも、ディフェンスでは古川(孝敏)とか(田中)大貴の方がアグレッシブさがあるし、そこは自分の方が劣っているかもしれない。シューターとしてそれを上回る働きを見せないと(最終メンバーには)残れないと思います」
それはまた他の選手も同じこと。それぞれ自分の持ち味を発揮し、武器を見せつけチームに必要な選手であることをどれだけアピールできるかが最終選考の鍵になる。
結果から言えば、16人から12人に絞られた選考で落選となったのは金丸晃輔、篠山竜青、田中大貴、ファイ・パプ月瑠の4選手だった。足のコンディションが良くないとされる金丸は別として、驚かされたのは田中の落選だ。東海大学3年次に初のA代表に選ばれて以来次代を担う若手プレーヤーとして期待と注目を集めてきた。所属するアルバルク東京ではルーキーシーズンからエースとして活躍。打ってよし、走ってよしのオールラウンダーであり、今回のアトラス チャレンジではポイントガードにもトライした。もともと広い視野を持ち、パスのうまさにも定評があるだけに比江島慎とツーガードでコートに立った中国戦でもミスなく落ち着いてプレーしていた印象がある。
それについては「彼の出来は非常によかった」と長谷川ヘッドコーチも認めるところだ。だが、そのあとに「ただし…」の言葉が続く。「やはり田臥、橋本と比べるとどうしても少し安定感に欠ける。また、これから比江島をポイントガードで使う場面が多くなることを考えると、こういう選出になった。(選手として)大貴の能力が劣っているということではなく、あくまで今のチームに誰が必要なのかを考えての選択でした」
日本代表とは「単に能力が高い選手を集めたオールスターチームではない」と、長谷川ヘッドコーチは言う。「こういった状況ではこの選手、こういった展開のときにはこの選手と考え、パズルのように何度も組合せていった結果、この12人がベストいう結論に至りました」
多くのスキルを持ち、ユーティリティー性が高い選手でありながら田中に欠けていたのは、チームのストロングポイントとなる『突出した武器』ということだろうか。
今回の彼の落選は予想外だったという比江島慎は「大貴とのツーガードは自分としてはすごくやりやすかったし、歳も近く今までずっと一緒にやってきた存在なのでめちゃくちゃショックでした」と、自分のことのように肩を落とした。だが、今は顔を上げて前に進むのみ。「本番では(大貴の分も)自分の力を出し切って戦います」――比江島もまたそれが『選ばれた自分』の責任であることを知っている。日本の中でたった12人しか上がれないOQTのコート。それぞれが覚悟を持って臨む大会はセルビア・ベオグラードの地で7月4日からスタートする。
■FIBA男子オリンピック世界最終予選
大会名称:FIBA男子オリンピック世界最終予選
(2016 FIBA Olympic Qualifying Tournaments for Men)
開催期日:2016年7月4日(月)~10日(日)
開催国 :セルビア、フィリピン、イタリア
参加国 :18か国 ※各会場の1位の国が出場権を獲得する。
組み合わせ:
【セルビア・ベオグラード会場】
グループA:セルビア、アンゴラ、プエルトリコ
グループB:日本、チェコ、ラトビア
【フィリピン・マニラ会場】
グループA:トルコ、セネガル、カナダ
グループB:フランス、ニュージーランド、フィリピン
【イタリア・トリノ会場】
グループA:ギリシャ、メキシコ、イラン
グループB:チュニジア、クロアチア、イタリア
大会特設サイト ⇒ http://oqt2016-men.japanbasketball.jp/