92ー64(11月15日)、女王JX-ENEOSサンフラワーズに28点差をつけて快勝した富士通レッドウェーブ。
今シーズンからチームを率いるBTテーブスHCは、「うちのバスケが最初からできたことが一番うれしい」と、声を弾ませた。
11月1日開幕を迎え、富士通は11月16日時点で4勝1敗。JX-ENEOS戦の前節ではトヨタ自動車アンテロープスにも77-60で勝利。成績だけを見れば好調なスタートを切ったと言える。しかし1敗を喫したのは、昨シーズン7位のトヨタ紡織サンシャインラビッツだった。
テーブスHCが“うちのバスケ”と言う富士通のスタイルは、「マンツーマンでプレッシャーをかけてブレイクを出すこと」。JX-ENEOS戦は、スカウティングによりゾーンディフェンスを併用し、それが功を奏して大差で勝利を収めた。
富士通はベテランから若手までタレントが豊富なチーム。今年の日本代表には、世界選手権へ山本 千夏選手と長岡 萌映子選手が、アジア大会へ町田 瑠唯選手が選出された。日本代表経験者を挙げれば半数以上にのぼる。勝利したJX-ENEOS戦で、ルーキーの篠崎 澪選手は31点を挙げた。
練習中のオフェンスがうまくいかない
富士通で8シーズン目を迎える名木 洋子選手。
JX-ENEOS戦では速攻を走って得点を挙げ、勝利に貢献。開幕戦は山本選手がスターターを務めたが、2戦目以降は名木選手が真新しいコートを任されている。チームが目指すディフェンスからブレイクを出すスタイルをしっかり体現し、テーブスHCの信頼を勝ち取った。
ケガ人が多くいるとはいえ、女王JX-ENEOSに勝利したことは大きい。
「自分たちのバスケをすれば勝てると思って試合に入れました。点数が伸びたのはすごく良かったです」
名木選手は、練習よりも試合の方が良いパフォーマンスを発揮できているという意外な話をしてくれた。
「練習中はあまりオフェンスがうまくいかず、いつも試合前は少し不安があります。でも試合になると、良い状態で入れているんです。きっとそれは、練習中に控えの選手たちがすごくがんばって相手をしてくれている証拠です。チーム内で激しいディフェンスをし、それを攻めきる練習をができていることで、試合になった時に良いパフォーマンスにつながっているのだとすごく思っています。勝ち抜くためには、練習から質を高めていくことが大事」
これは選手層が厚いことを裏付けるエピソードでもある。
まだまだチームとしては発展途上だが、町田選手と篠崎選手の若いツーガードの存在が大きい。
「篠崎も開幕はすごい緊張していたみたいですが、だいぶリズムを取り戻してきました。激しいディフェンスからブレイクを出すスタイルを貫くためにも、2人のがんばりがチームを勢いづけてくれています」
他にも若手選手たちの成長を感じる名木選手。日本代表から帰って来た山本選手と長岡選手が、「ミーティングや練習中での発言がすごく多くなり、責任感が出て来ました。それは本当に心強いこと」とも話していた。
やり甲斐があり、楽しい挑戦
HCが代わったことで、名木選手自身が昨シーズンから変わった点について聞いてみた。
「これまではガンガン攻めて、点を獲ればを良いという感じでした。でも、今はいろんなことが求められており、各選手がこれだけやれば良いというのではなく、一人ひとりの役割が増えていますし、これまでとは違ういろんなことを求められています。とてもやり甲斐がありますし、もっと上手くならなければいけないと思って、新しい刺激をもらって今はバスケができています。自分もさらに成長したいと思っています」
新しい役割とは具体的に何なのだろうか?
「ドライブした時にアシストを選択するなど、カットインしながら他の選手を生かす動きをするようになりました。これまでは強引にでもゴールまで行ってましたが、そこはもっと質を高めないといけませんし、最良の選択を求められています。結果オーライではなく、確実にゴールを決めるためにもより良い選択ができるように意識しています」
バスケIQを高めることでチームは強くなる。それとともに、見ているファンにとっても楽しくなる。そして、何よりも「質の高いことを求められているので、バスケをしていても楽しい」と名木選手は笑顔を見せた。
テーブスHCも選手たちの素材には自信を持っている。だからこそ、足りない部分を指摘する。
「能力ある選手たちだが、どうやってベストなプレイを引き出すかを常に考えている。シューターが多くおり、速さもあるが、パスが下手でアシストのアベレージが高くない。昨シーズンは町田がアシストで良い数字(平均4.06本/リーグ5位)を残したが、2番手以降の差が大きかった。そこを改善し、今ではみんながアシストをできるようになっている。パスを選択するだけではなく1on1を仕掛けて行くことも大事であり、その両方ができつつある。足が速い選手たちだから、スライドディフェンスも自ずと速くなり、日本人の特長を引き出していきたい」
5試合でアシスト総数89本は、11月16日時点でリーグ内で一番多く、早くも改善が見られる。
勝つことこそが自信となる
開幕週に連勝できずにつまずいたこともあり、JX-ENEOSに勝利した次の三菱電機コアラーズ戦は気を引き締めて臨み、75-57で連勝を飾った。この模様はWJBL CHNNELにアーカイブされており、いつでも見られる。
1戦1戦成長している富士通だが、ローマは1日にしてならず。テーブスHCもその長き道のりは想定内である。
「今は意識してプレイしている選手たちだが、自然と出るくらいクセになれば良い。そうなるまでには1シーズンだけでは到達できず、もう少し時間がかかる。まだまだ経験が足りず、勝つことが大きな自信になる」
現在、負けなし5連勝中のデンソーアイリス、そして直接対決で敗れたトヨタ紡織(4勝1敗)に続く、3位の富士通。
名木選手に今シーズンの目標を聞けば、「ファイナルに行きます」。
富士通がファイナルまで進んだのは、リーグを制した2008年まで遡らねばならない。
しかしオールジャパンは、2011年大会に決勝まで進んでいる。開幕が遅れた分、WJBLのチームは落ち着かないままオールジャパンへ臨むことになるだろう。一発勝負のトーナメントは何が起こるか分からない。JX-ENEOSに勝利した富士通にも優勝するチャンスは、手に届くところにある。
泉 誠一