「僕は上手いプレイヤーではないと思っていますので、地味なところで目立ちたい」
バスケットにおける評価はスタッツに表れ、数字が大きくものを言う。
しかし、5人が得点を獲ることだけを目指すだけでは円滑に行かないのもまた、チームスポーツの難しさ。
勝つためには……スター選手が輝くためには、光を当てる役割であり、影として支える選手が必要だ。
千葉ジェッツ#25荒尾 岳。体を張ったディフェンスやボックスアウト、198cmの体躯を投げ出すルーズボールこそが彼の魅力である。
トヨタ自動車アルバルク東京では、なかなか出場機会には恵まれなかった。NBLに移行した昨シーズン、同じ境遇だった小野 龍猛とともに千葉へ移籍。オンザコート1の時間帯が1Qと3Qに変更となったことにより、今シーズンこれまで全試合先発出場を果たしている。
「真っ新なコートはやっぱり気持ちが良いですね。これまでも何度かスターターの機会はありましたが、コンスタントに出られるのは(青山学院)大学の時以来。うれしいですし、楽しいです」
取材したのは、すでに寄稿されている小野龍猛インタビュー「自分たちが去年より強くなっているという実感はあります」と同じ2月11日、古巣のトヨタ東京戦。
「やっぱりどこかで意識してしまいます。移籍したばかりの昨シーズン、トヨタ東京に勝ちたいという思いが強かったのですが、1度も勝てず。でも今シーズンは、3勝もできて勝ち越せたのはすごいうれしいです」
前半はトヨタ東京にリード許していたが、後半はディフェンスが奏功し、相手を4点に抑えて逆転。リードを保ったまま駆け抜け、80−72で勝利。3Qだけで3本の3Pシュートを含む13点を挙げた西村文男が特筆すべきところだが、ディフェンスから流れをつかんだ千葉であり、オフェンスで飛躍させるための滑走路となる荒尾の献身的なプレイが支えていた。
「いやいや。文男はすごく得点力があり、ディフェンスを崩せるのでそこは信頼して任せています。泥臭いところが僕の役割で良いといつも思っています」
縁の下の力持ちは、コメントも謙虚である。
奇しくもこの日は、荒尾、小野とともにトヨタ東京在籍時にベンチを温めていた、二ノ宮 康平も先発出場を果たしてた。
「二ノ宮もここ数試合はプレイタイムが与えられていると聞いていましたし、スカウティングビデオでその活躍を見ていました。敵ではありますが、同じコートでプレイできたことはうれしいです」
オールジャパンでは、準々決勝で惜しくも2点差で敗れた悔しさも残っていた(オールジャパンを含めると通算3勝3敗)。
コートに立てていること、そして少しずつだが結果が出始めていることで、昨シーズン以上に充実していることが伺える。
1回戦から勝ち上がり、3回戦ではアイシンシーホース三河を下したオールジャパン。4戦目はトヨタ東京の前に一歩及ばず力尽きるも、チームとしては自信になったはずだ。だが荒尾に言わせれば、それはもう少し前の時点に感じていたことでもあった。
「今シーズンはオールジャパンだけではなく、リーグ前半戦からチームの成長が実感でき、段々と良くなっている手応えを感じていました。パス一つとっても、チームメイトの動きを分かりながら試合ができていました。勝ったことで自信となり、まだまだ良くなると思っています」
逆に言えば、昨シーズンは新天地に戸惑いを感じていた。
「龍猛以外は一度も一緒にプレイしたことがないですし、ヘッドコーチも初めて。システムも新たに覚えるところから始まり、うまく噛み合わないところがあったのだと思います」
コンスタントに試合に出られるようになり、シーズン中のコンディションをキープするのも、トヨタ東京とは違っているのではないだろうか?
「すごくケアをする時間が増えました。アイシングやストレッチを意識してやるようになりましたし、自分に使う時間が増えたことが一番の違いです。トヨタ東京時代は諦めていたわけではないですが、ずっと出られない状況が続いていたので、気持ちの面でも下向きになることがありました。千葉に移籍してからは、相手のビデオを見たり、準備する時間も増えています」
以前、すぐに太ってしまうからと、ジムに向かう荒尾とバッタリ街中で遭遇したことがあった。
「今は、ガマンしなくて良くなりました!ガマンせずに何でも食べられることが大きな違いです(笑)」
昨年、苦楽を共にしてきた小野が先に日本代表へ選出され、シュート力あるビッグマンとして活躍したことについては、どう思っているのか…ずっと気になっていた。
「すごく刺激にはなりました。お互いベンチにいた選手が、1年目ですぐに結果を出し、日本代表に選ばれたことはうれしい部分もすごくありました。同時に僕にもチャンスがあると思って、これからもがんばっていきたいです。(恩師の長谷川HCとまた一緒にバスケしたい?)もちろんです!」
荒尾の活躍はスタッツには表れない。だが会場で試合を観戦し、その姿を目で追えば、賞賛の拍手を送りたくなる。そんな選手だ。
小野とともにこの2人の才能を信じて獲得した千葉。さらに、横浜ビー・コルセアーズを2年目でTK bjリーグチャンピオンに導いたレジー・ゲーリーHCが、千葉でも2年目にしっかり飛躍している。レギュラーシーズン中は今後も山あり、谷ありの日々となるが、それを乗り越えた先にあるプレイオフに辿りつければ、どのチームも等しくトップを狙えるチャンスが待っている。千葉は、これからが本当に楽しみなチームだ。
☆3月18日発売予定のバスケットボールスピリッツ第5号より、千葉ジェッツの島田慎二代表取締役の連載コラムがスタートします!
泉 誠一