山野 勝行代表と初めてお会いしたのは昨年末。あるスポーツビジネスセミナーの講師として、プロチームを創る過程を赤裸々に紹介してくれた。
そのアプローチがおもしろい。
バスケは60余万人の競技人口を誇り、愛好者を含めれば測定不能なほどプレイヤーは多い。この“Doスポーツ”からアースフレンズはスタートした。みんなで“わいわい”バスケができる環境提供、つまりは普及活動からファン作りを始める。
早稲田大学が行う「トップスポーツビジネスの最前線」の講義では、トリプルミッションを掲げている。その3つが「マーケット(収益)」「普及」「勝利」であると、元経産相の官僚であり、日本サッカー協会の元専務理事を務めた平田 竹男教授は説いている。
「普及」から着手し「マーケット」を拡大したアースフレンズは、5年目にプロチームを持てるまでに急成長。そして誕生したプロチーム「アースフレンズ東京Z」(以下東京Z)は、初参戦するNBDLにおいて目下4連勝中と「勝利」をつかみ、トリプルミッションを達成中。
スポーツビジネスの王道を進む東京Zだが、元々集客を見込めない育成リーグNBDLにおいては、思うようにいかないことは多々あり、苦難の道は続く。
「うまくいかないことだらけのときは、やっぱり楽しいですよ。本当にいろいろとうまくいかないんですよ、あはは。笑」
大変な道のりだが、それも楽しみ、笑い飛ばす山野代表。
以前のセミナーにおいて、「ネガティブな意見を言う人には近づかない。だって、そんな話ばかりしてたら絶対に悪い方に行っちゃうんですよ」と根っから明るい人であり、志高い山野代表の周りには多くの人が集っている。
山野代表は、アイシンシーホース(三河)を題材にしたノンフィクション「ファイブ」を読み、佐古 賢一さん(現在広島ドラゴンフライズヘッドコーチ)のファンになってバスケにのめり込んだ言わば新参者。しかし、「バスケットボールで世界を変える」と立ち上がり、その後の行動力の速さは、東京Z誕生が全てを物語っている。
世界をターゲットに立ち上げ、記念すべき10月25日(土)のホーム開幕戦で勝利した後、山野代表にたっぷりお話しを伺った。
毎日が学んでいる状況
ー ホーム開幕戦での勝利おめでとうございます。これで3連勝(10月26日も勝利し現在4連勝中)ですね!
山野代表:もう、うれしいっ!!
私が代表をしていますが、バスケットに関しては素人ですから本当に分からないことだらけ。その中でも選手、コーチとスタッフのみんなが、「ファンのことを一番大切にする」というチームの方向性をしっかり理解してくれているので、今日の試合でも粘り強く、アースフレンズ東京Zらしいバスケットを見せてくれました。さらに勝利がついて来たので、これ以上の喜びはありません。ありがとうございます。
ー ようやくホーム開幕戦まで辿り着きましたが、その道のりは一筋縄ではいかなかったのではないでしょうか?
山野代表:うまくいってない経験は挙げれば切りがなく、ほぼ毎日が学んでいる状況です。ここ数年、いろんなチームの試合を観てきましたが、今日の開幕戦で感じた空気は(それらと比較しても)良かったと思います。みんなが一体となって応援してくれました。会場に来られた方々の中でもバスケットをしている方もおり、選手の気持ちを理解して応援してくれているので、会場の雰囲気作りや一体感は、5年間アースフレンズとしてバスケットをできる場所を提供してきたことで、ある一定の形にはなってきていると実感しています。
実は、今日(10月25日)よりも明日の方が集客を見込めており、前売りも倍くらい売れています。この開幕戦をめざして10ヶ月間活動をともにしてきた地域の方々が明日はもっと多く来られます。バスケをプレイして来た方と、地域の方々が混ざることでかなりおもしろい化学反応が起きると思っています。東京でプロバスケは難しいと仰る方が多い中で、こうして熱い空気が作れたことを実感でき、嬉しい限りです。第一歩を踏むことができました。
ただ、足りないことの方が多く、僕も含めてオフィシャルスタッフはまだまだです。ファンのことはもちろん、関係者の皆様、手伝っていただいているボランティアスタッフの皆様にもっともっとより良い質のものを提供できるようにしなければなりません。今日の試合だけでも改善点がいろいろと見つかりました。そこは今日から努力していき、一歩一歩積み上げていきたいです。
ー 昨年末のセミナーでNBLの集客目標平均2千人をどのチームも到達していない状況だが、アースフレンズはDoスポーツとして広げてきたことですでに見込みファンがおり、「開幕戦は2千人にする」と高い目標を持っていましたが、2日目の集客はその目標に届きそうですか?
山野代表:どこまで行くかは分かりませんが、千人は越えると思っています。あとは当日券がどれだけ動くかですね。実際、今日も当日券が結構出ました。明日は、少しでも多くなれば良いのですが…。
NBDLの場合、アウェイのファンがほとんど入らない現状があります。ホームのファンだけで会場を埋めなければいけない中で、目標である2千人へ向けてどう到達するかは、これからチャレンジする課題です。自分たちのファンだけで埋めなければならない可能性が高いのですが、そこはしっかり目標としてできる限りのことをやり切りたいです。
ー 今日の勝利で、明日の集客は楽しみになりますね。
山野代表:勝利は最後について来るものですし、運もあります。今日みたいに競った良いゲームをどれだけ続けられるかが大事だと思っています。ですので、選手たちは良い意味で今日の勝利を忘れてもらい、また1からしっかりと粘り強い戦いを明日も見せてもらいたいです。
Do(バスケをする)からWatch(バスケを観る)へ
ー バスケをする環境を提供し、その方々が今度は観客に変わったことで、バスケを熟知しているから自然と盛り上がるというのを体感させてもらいました。これまでバスケの普及活動で蒔いた種が、会場で花を咲いたようにも感じました。
山野代表:そう言っていただけるとすごくうれしいです。本当にそうだと思います。自分の投影として東京Zの選手を見ていますし、アースフレンズではコーチとして教えてくれる選手たちです。選手(コーチ)に対する愛情はそれはそれは深いものがあります。それが良い方向に出てきたと、すごく感じています。本当にファンの方が良い雰囲気を作ってくれていました。
ー 今後、試合を観た方が口コミを広げ、それで来たファンが多い方が応援する期間が長くチームにファンが定着すると思います。ファンが違う仲間を連れてくることを目指されているのでしょうか?
山野代表:仰るとおりです。企業からご支援いただくお金は大事ですし、一定のウエイトを占めています。しかし、それはどうなるか分からず、最悪の事態としてそれが無くなったとしても、チームとして運営できるようにしなければなりません。そのためにはファンが大切です。我々は個人ファウンダー(支援者)も募っており、まだ、誰も試合も何も見たことがない時にお金を投じていただいたわけです。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。もっとファウンダーを広めていきたいと思っています。
ー ファンにとって近い選手であるとともに、選手にとってもファンやスポンサーが近い存在であると感じられ、新しい形として期待が持てます。
山野代表:ありがとうございます。みんなの思いを形にできるようにしていきたいです。ファウンダーの方々がお友達を連れてきてくれています。今日の試合を観て、「おもしろいよ」とさらにつなげていってくれれば、より良くなっていくと思っています。強固なファンができ、そこにさらに多くの企業が乗っかってくれば、一番おもしろい形になるのではないかと期待しています。
お金の話
ー お金の話で恐縮ですが、選手たちは年俸制ですか?
山野代表:NBDLの統一契約書がありますので、年俸制で提示し月割りで支払っています。当然、選手によっては年俸の差はあります。1シーズンを通して査定し、来シーズンに年俸が上がる選手がいれば、下がる選手もおり、最悪はカットされる場合もあるでしょう。その点についても、僕は選手に言っています。活躍すれば上がるし、ダメならば下がるのがプロ。それは僕らスタッフも同じことであり、観客を入れられなければ自ずと下がるわけです。お互いにプロなのです。ただ、好き嫌いでは絶対に判断することはありません。そこは常に選手たちには言っており、いつもデータを出しています。もちろん思いとしては、みんなで1シーズン、1シーズン上がっていき、ちょっとでもバスケ界が人並みの生活ができるようにしていきたいです。
ー チームとしてスタートしていない初年度は、どのように予算立てするのですか?
山野代表:スタート時点から年間予算を決めました。スポンサー・ファウンダーはこれくらい獲得したい、という計算をしますが、現時点ではかなりタイトな予算繰りをしています。リーグの方からも驚かれるくらい「ちゃんとしてる」と言われます。それぞれの数字は、毎週末集計して僕がチェックします。経費の状況や損益計画との差異などを見て、修正しながら進めています。こういう作業を毎週繰り返しながら、数ヶ月先まで滞らないように注意深くチェックしています。
ー 山野代表の元々のお仕事が役立ってるのでは?
山野代表:そんなに偉そうに言うほどではありませんが、金融不動産でしたので、少しはそうかもしれないとは思います。
ー プロチームによっては見通しが甘く、経営難に陥るケースもあるわけですが…
山野代表:他のチームをどうこういえる立場にないですし、うちだって将来どうなるかなんてわかりません。ただ、できることはする。数字を常に見ておけば良いことではないかと思うのです。何にいくらかかっており、収入はいくらなのか。それを毎週、毎月見ていけば、見通しがたつと考えています。もちろんそこに期待値を乗せていくわけですが、今のバスケ界ではbjリーグも合わせて約50チームほどあり、一部のチームを除いて、プロチームはどこも互角の状態ではないかと感じています。これからリーグの再編などがあり、期待はしていますが、現状は厳しいわけですから、そこを念頭に予算も絞らなければなりません。選手とスタッフとともにチーム一体となって、売上を上げていくことが大事だと思います。誰しもがより良い生活を送りたいというのは当たり前の欲望なのですから、そこはしっかりとしなければという考えです。そのためにもファンに喜んでもらえることをとにかく考えて実行に移すことを大事にしているつもりです。
お手本はスポーツチームだけでなく世界有数のエンターテイメント
ー これまでNBL(JBL)やbjリーグの試合は観られて来たのでしょうか?
ほとんどのチームの試合を観ました。常に勉強させてもらっています。他チームの研究をした上で、自分たちのオリジナリティを出せるよう心掛けています。たとえば今日の会場内にもたくさんの張り紙を掲出しましたが、トイレにも張り紙をしています。これは他のチームではなかなか見ません。バスケ界ではうちが初めてじゃないでしょうか。試合前やハーフタイムに一番メッセージを送れる場所がトイレなのに、そこに貼らないのはもったいないことだと思います。
料理レシピと一緒で、美味しいと思えばみんなマネしつつも、さらにオリジナルを作りだしますよね。そのスタンスはプロとして当然だと思います。試合会場作りも、うまくいってると思われるチームを見て学び、良いところを取り入れさせてもらっています。もし研究しない人がいるなら、僕からすれば、なぜ良い手本があるのにすぐにそこに行かないのか、という点が疑問です。集客数はマネしようにもすぐにはできませんし、時間がかかるところではありますが、張り紙やグッズをマネることは瞬間的にできることです。そこに気づかず、やらないで良いと思ってる人の考え方の方が僕は分かりません。なので、スタッフには、他チームのホームゲームへ足を運び、参考にできるところはないか?という視点で観なさいと言ってます。もっといえば、スタッフには、「ライバルは最高級のエンターテイメント」って言っています。バスケ界だけでなく、成功しているエンターテイメントをどんどん研究する。一番言いたいことは、学んでいこうということです。我々はまだまだできていないところもいっぱいあり、裕福では無いので至らぬ点もいっぱいありますが、やれることはすぐ実行し、他のチームの良いところからしっかり学ばせてもらっています。
ー 今後のチーム計画や構想は?
いろいろ言われてますが、統一プロリーグをやり切ってもらうことに期待していますので、2016年の統一プロリーグに上がることがまず第一。これはリーグにも、選手たちにも言ってます。そこを目標に今年と来年はNBDLで戦い、確固たる基盤や観客動員をしっかり作って上に行こうと話しています。それが無いと出戻りになる可能性もあり、背伸びしても良いことはありません。2016年には、とにかくトップリーグに行こうということは、みんなが一体になって思っていることです。選手たちには、その時までしっかり生き残れよ、一緒に上に行こう、みんなでがんばって生き残れるようにしよう、と話しています。
真のトップリーグに入れば、次は日本一を目指します。2020年の東京オリンピックまでには達成したいと思っています。東京から日本一のチームが出たよ、と東京オリンピックの時には言いたいですよね。
その次、東京オリンピック後からは、アジアに出たいです。アジアのチャンピオンが集まるようなリーグに出たいですし、プレシーズンも含めて2020年代はアジアに出ていきたいです。そのためにもまずは日本で、足下を固めなければなりません。アジアチャンピオンという称号を手にして、そして世界へ!
ー 山野代表は常に「世界」というキーワードを用い、そこが爽快に感じています。
昨今のバスケ界だけでなくスポーツでは、世界で活躍しなければ、日本中が沸くことは難しい。何より、世界で活躍することを夢見たら、本当にワクワクしてくる。このチームにいる選手やスタッフとともに、とにかく世界を目指し、そこで戦う楽しさをイメージしながら突き進んでいます。そのためにも、まず僕らスタッフは2016年までに英語ができなければならないというミッションを掲げました。僕もできないので。笑
今は毎日がドタバタで、いつ勉強すれば良いんだ、というような状況ですが、そういう目標を立てることが大事であり、できるできないというのはその後の話。できなければ次の手立てを考えれば良いだけですから。世界を目指すためにも、まずは東京オリンピックまでに日本一のチームだと言われるようになりたいです。
ー 大変なことを楽しんでる感じがします。
楽しいんですよ。うまくいかないことだらけのときは、やっぱり楽しいですよ。本当にいろいろとうまくいかないんですよ、あはは。笑
始まったばかりで知らないことだらけですが、その都度分かっていけば良いだけです。今、しっかり覚えて行けば、来シーズンはかなりスムーズに行くと思っています。
あとは、設営から何から何まで、みんなボランティアスタッフがやってくれています。言われるまでもなく自ら動いて、そして話し合ってより良いものにしてくれています。本当にありがたいです。感謝の気持ちしかありません。チームの最高の財産です。
バスケをする環境を提供してきたことで、見込みファン層が拡大した。それ以上に、ボランティアスタッフとしてともに作り上げる仲間たちが確立されている。「僕のことよりも、ボランティアスタッフを取り上げて欲しい」と言う山野代表は、観客席を指差し、率先して働くスタッフたちの仕事ぶりに眼を細める。
インタビューを終え、出口に向かうと何やら観客席にカードが貼り付けられていた。そこには選手から会場へ足を運んでくれたファンの皆さんへ、温かい御礼の言葉が書かれていた。ファンのことを一番に考え、世界を目指す東京Zのおもてなしを感じる。
混沌とし、迷走するバスケ界だが、しっかりとファンを見て運営されているチームも多くある。やっぱり現場(会場)に行けば、バスケは楽しい。
アースフレンズ東京Z 次回ホームゲーム
東京Z vs パスラボ山形ワイヴァンズ@大田区総合体育館
11月1日(土)13:00
11月2日(日)12:00
泉 誠一