津山 尚大。沖縄県北谷町出身。福岡大学附属大濠高校3年時にはインターハイ、国体を制して高校2冠。明成高校と熱戦の末に敗れたウインターカップ決勝の記憶が鮮明に残っている高校界のスター選手が、琉球ゴールデンキングス入りを決めた。早ければ2月7日、8日にホーム那覇市民体育館で行われる浜松・東三河フェニックス戦からコートに立つ。楽しみだ。
TK bjリーグの平均観客数は1,508人(1月18日時点)だが、琉球は平均3,114人とダブルスコアの盛り上がりを見せている。「キングスの選手になる」と津山が目標を定めた中学3年生の時(2011-2012シーズン)、琉球はウエスタンカンファレンス1位、そして浜松を破って頂点に立った。日本一の集客を誇るチャンピオンチームが地元にある。その一員になりたい、と思うのはごくごく自然のことと言えよう。
キングス入りを目標に、日々続けたひたむきな努力
ウインターカップ、そして先日行われたNBLオールスターゲームのウォーミングアップコートで見た津山は、すでにプロっぽかった。自らが課しているのか、いずれもボールハンドリングの個人メニューから始めていた。強いドリブルを右、左と交互に付き、クロスオーバー等ハンドリングパターンをいくつか交えながらボールの感触を確かめるように、体を温めていく。同じような光景を現在活躍するプロ選手のウォームアップでも見たことがあった。
他の選手たちは笑顔で話しながらリラックスする中、ひとり黙々とドリブルを付く姿を見て、意識の高い選手だと思わされる。振り返れば、中学3年の頃から体幹トレーニングをして当たり負けしないように体作りをしている、と言っていた。それもキングスに入るためであり、周りとは違う明確な目標を定めたことで、ひたむきな努力を続けてきたのだろう。
高卒選手と言えば澤口 誠(青森ワッツ)、同じく盛岡南高校の先輩である川村 卓也(和歌山トライアンズ)、そしてNBA挑戦中の富樫 勇樹(NBA Dリーグ・テキサスレジェンズ)などがいるが、大卒と比較すれば圧倒的に少ない。逆に世界に近い女子は、高校卒業後にそのままWJBLへと進むケースの方が多い。科学的な根拠はないが、18歳からトップレベルの環境下で鍛錬されたおかげで、女子日本代表が世界に出られる存在になり、川村や富樫もすぐさま日本代表として活躍できた実績がある。
高卒ルーキーを迎えるメリットは大きい。高校バスケの注目度はTK bjリーグ、NBL以上と言わざるを得ない。地元スター選手を獲得すれば、自ずとチームの知名度が上がる。A契約300万円からの年俸も、大学生になるといろいろと将来を見据えた計算をしてしまいがちだが、高校生にとっては大金でしかない。交渉も早いことだろう。高卒でプロの道へ進む選手が増えることで、女子同様に日本のレベルアップにつながることも期待される。今はルール的にNGとなったが、NBAを見てもコービー・ブライアントやレブロン・ジェームスも18歳からプロとしてコートに立っていた。
プロチームと大学の提携により選手を成長させる環境作り
若き逸材のプロ入りは、バスケファンとしては歓迎する。しかし、親の目線に立つと手放しでは喜べない。
残念ながら、現時点では将来が明るくはないバスケ界。プロ野球と違い、契約金のような大金が手に入るわけでもない。セカンドキャリアを考えても、大学に進学してもらいたいというのは親心。さらに津山のようなスター選手であれば、引く手あまた。高校生による大学人気ランキングを見ても、1位明治大学を初め、バスケも強い関東の大学が軒並みランクインしており、その多くに進めたはずだ。
都内で電車に乗れば、車両を占領するほど大学の広告が目立つ。プロ野球やサッカーのスタジアムを見ても、様々な大学が看板を出している。琉球もまた、大東文化大学とパートナー契約を結んだ時があった。スポーツ界では大学がスポンサーするケースは多い。ならば、高校生を迎えつつ希望すれば地元の大学で勉学もさせる、そんなパートナーシップがあっても良いのではないか。
渡邊雄太が活躍するNCAAは文武両道であり、勉強が一定のレベルに達しなければプレイすることもできない。しかし、彼らは日本のプロチームやトップチーム、日本代表よりも強いのは火を見るよりも明らかである。日本の大学界にその環境が無いならば、プロチームが率先してバスケも、勉強も、人としても大きく育つ場所を作れば良い。親も安心できる。新たなるモデルケースとして学校や自治体が認めるかも知れない。大都市ではなければ、地元に若き逸材を留まるために、何かしらの助成金だって期待できる。
高校バスケを見れば、全国各地に点在する逸材がいる。しかし卒業とともに簡単に手放してしまい、関東に一極集中で集まってしまう。地元のスター選手を受け入ることで、高校バスケの熱をそのまま地元チームに向けられるのは、大学にとっての宣伝効果や地元の活力としても、小さくはないはずだ。
生活環境もプロ化へ
高校スター選手も原石にしか過ぎず、生活環境や強化環境はプロとして最低限は備えてから迎えていただきたい。大学と施設やスタッフ数を比較しても、劣るプロチームばかりなのが現状である。ほとんどのWJBLチームは寮と体育館が完備され、だからこそ厳しい練習を強いることができる。育ち盛りの選手たちを満たす食生活、安心できる住環境だけでも保証できるようにしなければならない。その環境さえあれば、A契約の最低年俸を半分に下げたって良いだろう。生活費を含めた300万円では、アスリートとしては二の足を踏んでしまう。プロ意識が高いほど、上手くなるために様々なトレーニングなどに個人投資をしている。そこに少ない年俸を費やすためにも、生活面やベースとなる練習環境を確保するのがプロであろう。
琉球は、観客数など表向きな環境は誰もが認めている。今後の津山に対し、プロに行って正解だった、さらに上手くなった、と言われることで、琉球の評価はさらに高くなっていくはずだ。
現在、福岡大学附属大濠高校1年の渡嘉敷 直輝(沖縄出身)も将来、キングスの選手になりたいと言っていた。仙台、新潟、秋田、香川(高松)などなど数多くプロチームがある分、同じような目標を持った高校スター選手を迎え、地元を盛り上げるケースが増えていってもらいたい。そうなれば、プロとしての環境整備が迅速に変わることも期待できる。目標を叶えた津山、それを受け入れた琉球のさらなる活躍が今から楽しみだ。
泉 誠一