2015年のALL JAPANに出場した地方ブロック代表9チーム(女子)の中で、実業団は秋田銀行と今治オレンジブロッサムの2チーム。他は高校・大学の6チームと、クラブの1チームが出場権を得た(山形銀行、鶴屋百貨店、紀陽銀行は社会人選手権上位3チーム)。
その地方ブロック代表で3回戦まで勝ち進んだのは秋田銀行だけだった。
“「感謝の心を大切に。」を常に忘れず、まずは初戦突破を目指し戦います”という目標を見事にクリアした秋田銀行。昨秋の社会人選手権では負けてしまったものの東北ブロックを勝ち上がって出場権を獲得。今年の全日本実業団選手権大会(1/24~27:北海道)では3連覇を狙う強豪チームだ。
古田 悟……ファンにはお馴染みの名前が、秋田銀行を率いるヘッドコーチとしてALL JAPANに帰って来た。愛工大名電~日体大~三菱電機~トヨタ自動車と、常にチームの主力として活躍し、日本代表として世界選手権に二度出場。日本で開催された2006年の世界選手権ではキャプテンを務めた。
2011年に現役を引退し指導者の道へ進み、一時U-22日本代表のコーチに。その後、2012年から江戸川大学男子チームを指導し、2014年6月に秋田銀行のヘッドコーチに就任した。
現役時代は泥臭い仕事を黙々とこなすビッグマンとして知られ、目立つスタッツや強烈な印象のプレイは少なかったかも知れない。しかし、“泥臭い仕事はアイツ(古田)に任せておけば大丈夫!”と周りから評され、絶大な信頼を得た選手だった。
ALL JAPANでは敗れたものの自信に変えて、次に向かう!
2015年1月3日、トヨタ自動車アンテロープスとの試合に敗れた(46-63)あと、話を聞いた。
──点差が付いてしまいましたが、今日の試合はいかがでしたか?
古田:昨秋、練習試合でコテンパンにやられたので、それから比べると収穫のある試合でした。前回は、相手の主力が出ない状態でダブルスコアでしたから、ディフェンスが少し良くなったと思います。ALL JAPANという大きな舞台で、相手にもプレッシャーがかかる試合で前回以上の試合ができたのは良かったですね。自分たちのプレイに徹して、粘り強く戦えたと思います。この結果は、次の試合(全日本実業団選手権)に向けて、自信につながるはずです。
──第3Pは0点に抑えられてしまいましたが?
古田:自分たちのイージーミスが多かったというのはありますが、相手も(トップリーグとしての)プライドがあります。前半を終えた時点で28-36、少しは本気にさせることができたんだと思います。その中で、自分たちの目指すプレイをやろうとしたんですが……公式戦で、相手の主力が出てきた試合での結果ですから良い経験になりました。
──試合とは離れますが、ヘッドコーチ就任はどういう経緯だったんでしょうか?
古田:大学を辞めてから少し時間が空いたんです。いつくかお誘いをいただきましたが、いろいろな可能性がある中で、僕自身はまだ指導歴が浅いし、さまざまな経験を積まなければいけないと考えていたんです。それで、知らない世界というか、女子チームの指導というのも選択肢のひとつに考えた結果です。
──指導者としてのキャリアを積みたいという思いがあった?
古田:年齢はいっていますが、指導者としては若手というか……なのでチャレンジできるなら、という思いはありましたね。
──ご自身のキャリアをベースに、選手たちには何を伝えていきたいと考えていますか?
古田:やっぱりディフェンス。一生懸命、泥臭くやるチームというか……今日のような強い相手だと、そこで勝っていかないと勝負できません。今日の負けで終わりではありませんし、次の全日本実業団選手権が一番の目標ですから、そこに向けて今日以上の試合ができるように頑張っていかなければなりません。
──実業団というカテゴリーでは目標となる大会ですね?
古田:特に社会人選手権ではすぐに負けてしまったので、「全日本実業団」は優勝したい。社会人選手権での負けを引きずらず、ALL JAPAN出場を果たしたので、もう一度チャレンジするつもりです。これまでALL JAPANは1回戦を勝ち上がれかったんですが、今回は2勝。1、2回戦でトップリーグ勢と当たらず、くじ運が良かったのかも知れませんけど(笑)
──対戦相手がどうあれ、2回勝ったというのは大きいですよね?
古田:そうですね。女子ですけど、僕の古巣でもあるトヨタ自動車と対戦したいという気持ちがありました。さっきお話したと通り、練習試合では大敗した相手ですから、もう一度、力を試したいと思っていたんです。それは選手たちも一緒だったと思いますよ。自分たちの力を出し切って戦えたので、「満足」というわけではありませんが、次の目標に向けてモチベーションは上がったはずです。あと3週間ほど準備期間がありますし、選手たちには自信になったはずです。
──選手たちは通常業務をこなし、それから練習ですよね?
古田:今日もこれから帰って、週明けから仕事です。練習は夜しかできませんが、彼女たちはよく頑張っています。もともとそういう環境でバスケを続けると自ら選んだわけですが、仕事とバスケの両立は大変ですからね。職場の理解や応援を力に変えて、自分たちのベストを尽くす、ということ。何とか、彼女たちに良い結果を残してあげたいというか、「全日本実業団」で勝って、今年度の活動を終わりたいですね。
常に上を目指して努力する
選手もコーチも同じ思いで
──ヘッドコーチの「重み」というはいかがでしょうか?
古田:選手の時は自分勝手にやってきたので、本当に難しいですね(笑)経験があると言っても、それは選手としての経験です。20代や30代でも、コーチ歴の長い方がいますからね。選手時代もそうでしたが、自分が一番下手だと思ってやっています。だからといって、自分が下ばかり見ていては上達できませんから、常に上を見て、真似できるところや盗めるものがあったらどんどん吸収しよう、そう思って取り組んでいます。
──指導者になると決めてから、心掛けている勉強法というか、何かありますか?
古田:とにかく試合をたくさん見ています。女子は初めてですから、「ここまで細かく指示を出すんだ」とか「こういう言い方があるんだ」とか学ぶところはいっぱいあります。課題が見えてくるんです。指導の仕方を含め、まだまだ学ぶべき点はたくさんあります。なので“コーチ古田”は長い目で見てください(笑)
コーチ古田は、ヘッドコーチとして“新たなチャレンジ”を始めたばかり。数々のタイトルを獲得し、日本代表キャプテンとして活躍した選手時代と変わらない柔和な笑顔でインタビューに答えてくれた。「現役の頃はわがままだったので……」という言葉とは裏腹に、周囲に気を配りながらチームの精神的な支柱となっていた。
相変わらず声は小さかったが(笑)、確かな目標を掲げ、一歩ずつ前進して行こうとする意志の強さも変わらない。この日、20得点、11リバウンドと活躍した#13伊藤美和子選手に、少しだけ“コーチ古田”のことを聞いてみた。
──実績もサイズもビッグな古田ヘッドコーチですが、どんな印象でしょうか?
伊藤:すごく優しいコーチです。選手たちの考えを理解しようとしてくださり、思ったようにプレイできるよう指導してくださっています。あまり怒らないですし、頭ごなしに話をされないので、選手たちからもコミュニケーションを取るようにしています。私自身、これまで指導を受けたコーチとは少し違うと感じています。
──ALL JAPANが終わったら、次は全日本実業団選手権の連覇を目指すわけですね?
伊藤:そうです。チーム一丸となってヘッドコーチを盛り立てて、一緒に優勝したいです!
ALL JAPANでの敗戦を糧に、3連覇を狙う実業団選手権に挑む選手たち。実業団というカテゴリーでは、古田HC以上に彼女たちのほうが経験豊富なのかも知れない。「良い結果を残してあげたい」と古田HCはコメントしていたが、それ以上に選手たちが「ヘッドコーチを胴上げしてあげたい(サイズ的には難しいが!?)」そう思っているのかも知れない。
コーチ古田にチャレンジは、まだ始まったばかり。さまざまな経験を積み、自分なりの指導法を追求しながら、ビッグ(偉大)なコーチのひとりになるだろう。そして、いずれその姿を日本代表のベンチで見ることができるかも知れない。
オールジャパン公式サイト
〈あきぎん〉女子バスケットボール部
第47回全日本実業団バスケットボール選手権大会(札幌大会)
文・羽上田 昌彦(ハジョウダ マサヒコ)
スポーツ好きの編集屋。バスケ専門誌、JOC機関紙などの編 集に携 わった他、さまざまなジャンルの書籍・雑誌の編集を担当。この頃は「バスケを一歩前へ……」と、うわ言のようにつぶやきながら現場で取材を重ねている。 “みんなでバスケを応援しよう!”を合言葉に、バスケの楽しさ、面白さを伝えようと奮闘中。