本文・松原貴実 写真・三上 太
4月25日から開催された第64回関東大学バスケットボール選手権大会は5月10日に決勝戦を迎え、東海大が筑波大を78-64で撃破し2年連続の優勝に輝いた。昨年度と同じ顔合わせとなった決勝戦は立ち上がりこそ互角の展開となったが、持ち前の激しいディフェンスで筑波大の『足』を止めた東海大が第2Qに流れをつかむと、そのまま一気に加速。筑波大に反撃のチャンスを与えることなく『強い東海』を存分に見せつけた。
ディフェンス力で他を圧倒した東海大
東海大・陸川章監督
「ターンオーバーの数が多いのが気になるところですが、ディフェンスは良かったと思います。プレッシャーもかけられるようになったし、(以前は)ローテーションで穴が空くところがあったのですが、それもカバーできるようになりました。とはいえ、まだ春の段階ですし、これからも失点にこだわってディフェンスの強度を上げていかなければなりません。オフェンスについては『弱気にならないこと』を心がけたいと思っています。下級生たちに東海大のバスケットをより理解してもらうことも大事。そのためには6月の新人戦を見据えて練習を重ねて行くつもりです」
東海大はチームの大黒柱であるセンターの橋本晃佑をケガで欠き、加えてSG中山拓哉が大会前に骨折するアクシデントに見舞われたが、先発メンバーががらりと変わったチームをキャプテン・ベンドラメ礼生が終始攻め気のプレーで牽引した。
東海大・#0ベンドラメ礼生
「一昨年はエースの大貴さん(田中大貴・トヨタ自動車アルバルク東京)がいたし、自分もまだ下級生だったので、パスを出すときも周りを探しているようなところがあったのですが、去年ぐらいから点を取りに行くことを意識するようになり、今年はさらにリングに向かう姿勢が強くなったような気がします。自分のシュートがチームに与える影響力は大きいと思っているので、それを意識しながら3点プレーとかも狙っていきたい。今日の決勝戦ではアウトサイドシュートが1本も決められませんでした。大事な場面でシュートを決め切ることが課題の1つです。また、ターンオーバーが多いのも修正しなければならないところ。ガードとして状況判断が甘いということは毎試合感じているので、これも自分の大きな課題です」
そのベンドラメの“相棒”として、今大会初めて先発メンバーに器用された小島元基の存在も大きい。「あいつはケガで出遅れたけれど、1年生のときからレギュラーになってもおかしくない力がある選手だと思っていました。一緒にプレーすると、あいつにボールを任せられるので(自分が)コートの中で体力を回復できる時間ができます」と、ベンドラメが語るように自分が担った役割を全うし、ベンドラメとの息の合ったコンビネーションプレーも光った。
東海大・#1小島元基
「レオ(ベンドラメ)はプレーをしっかりやるやつだから、自分はディフェンスや声かけといった『熱い面』を意識してやっています。去年で言えばキャプテンだった藤永(佳昭・アースフレンズ東京Z)さんのようなキャラはとても大事だと思うので。今年は試合を経験していない下級生が多いですが、それぞれ高い能力を持っているし、僕たち4年生がしっかりしていれば下級生たちは付いてきてくれる。去年とはまた違った意味でいいチームになってきているなと感じています」
決勝戦で大暴れしたのは3年生の#24三ツ井利也。ベンチスタートながらスリーポイント5本を含む25得点で勝利を呼び込む立役者となった。
東海大・#19三ツ井利也
「自分でもびっくりしてます(笑)。この大会は初戦からシュートタッチも良くて、調子はいいなと感じていましたが、思い切って打っていけば今日みたいなサプライズに繋がるんだなと実感しました。リクさん(陸川監督)からは今シーズンは3番に起用すると言われていたし、シューターの鈴木(隆史)がケガ上がりで、その負担を少しでも軽くしたいという気持ちもありました。でも、特に気負うことなくリラックスしてゲームに入れたのもよかったと思います。ただ、前半に比べて後半は(シュートが)入ってなかったので、一試合、一試合コンスタントに決められるよう、また一から努力していきたいです」
今大会、先発メンバーとして起用された#24卜部兼慎、#23佐藤卓磨はまだ2年生。
「チーム全体を見たとき、弱気な部分も見られるのかなぁと思っていたんですが、佐藤も決勝戦では積極的にゴールに向かって行ったし、そういうことも含めいい経験になったと思います。1年生が入ってきて新しいチームになったときは、僕たちの熱を伝えるというか、同じモチベーションに持っていくのは難しいなぁと感じましたが、みんなよくついてきてくれています。チームが悪い流れにならないように、いい雰囲気でやれるように、ポジティブに持ち上げていくことが自分の1番の仕事だと思っています」(ベンドラメ)
ケガの橋本に代わって昨年のインカレから先発起用された#45頓宮裕人(198cm)も着実な成長を示し、今大会の優秀選手賞にも選出された。ここに橋本、中山が戻った秋にはさらにスケールアップした『強い東海大』が見られそうだ。
新しきリーダーが待たれる筑波大
その東海大を昨年のインカレで破り、61年ぶりの日本一に輝いた筑波大は今大会の優勝候補の筆頭と目されていた。だが、準々決勝の日本大戦、準決勝の明治大戦はともに3Qまで僅差の展開、最終Qで振り切ったものの決して会心の勝利とは言えなかった。決勝戦でも持ち味である『堅守から走るバスケット』が陰を潜め、途中21点差を付けられるなど、終始東海大に圧倒される試合となった。
筑波大・吉田健司監督
「今日の最大の敗因はルーズボール。うちはリバウンドを取ってそこから走るチームなのに、ディフェンスリバウンドが取れず、こぼれたルーズボールをことごとく取られてしまった。そのあとのボール運びにもプレッシャーをかけられ、自分たちのリズムでバスケットをすることができませんでした。4Qの残り5分を切ったあたりからようやく走れるようになったんですが、本来はああいうバスケットをずっとやらなくてはならない。やらないと勝てないわけです。そのためにはチームを引っ張る4年生に普段の練習からもっと頑張ってもらわなきゃならない。昨年のチームから笹山(貴哉・三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ名古屋)や坂東拓(三井住友銀行)が抜けて、ガード力が低下したとか言われますが、私はポジションがどうこうよりまずは4年生が存在感を示すことが大切だと考えています。まだどこのチームも発展途上のこの春の大会で、東海大が抜きん出ていたのはベンドラメという絶対的なリーダーがいたからこそ。では、筑波のリーダーは誰か?と聞かれたら、すぐには答えられないでしょう。決勝戦でもその差は大きかったです。でも、まだこれは春の段階の話ですから、これからどのチームも成長していきます。もちろん、うちも大きく成長できるよう頑張っていきます」
昨年“スーパールーキー”として注目を集めた馬場雄大と杉浦佑成にとっても今大会は不完全燃焼の感が強かったのではないか。「チームとしていい意味での危機感が足りなかった」と馬場は振り返る。
筑波大・#6馬場雄大
「アメリカ留学を決めた亮伍(角野亮伍・藤枝明誠卒)が(渡米までの期間)東海大で練習しているのは聞いてましたが、その亮伍から『僕が馬場さん役になって、東海大はめっちゃ対策してましたよ』と聞いて驚きました。それに比べうちは危機感が足りなかったんじゃないかと。この大会、自分は初戦からフワフワした感じで入ってしまって、どこかに『どうせいけるだろう』みたいな甘い気持ちがあったように思います。そのせいでずっと自分たちのバスケットができなくて、正直、東海大に勝てる気がしませんでした。ディフェンスを上から当たって流れをつかもうと臨んだんですが、受け身になって下がり気味に守ったことで、前半で相手を勢いづかせてしまった。逆に東海大の激しいディフェンスを受けて、うちはフォーメーションも何もさせてもらえなくて単発なプレーで終わってしまいました。東海大のディフェンスはこれまで以上に戻りが早かったです。個人的には、笹山さんや坂東さんがいた去年は走るだけで点を取らせてもらっていましたが、得点源でもある2人が抜けたことで自分のマークもきつくなったので、今年はその上を行かなければなりません。もっと自分で点を取るシチュエーションを作っていかなければならないと思っています。決勝戦は完敗でしたが、今は負けてよかったというか、この負けによっていろいろ気づくこともあったので、それを必ず次につなげていきたいと思います」
大会で知った課題を胸に秋へ
新チームになって間もない春の大会には波乱がつきものだが、今大会も上位常連校の青山学院大が中央大に敗れ早々と姿を消す波乱があった。鵤誠二、船生誠也という4年の主力選手がチームを離れた青学大は当初から苦しい戦いを強いられたが、順位決定戦では白鷗大にも敗れ10位で終了。だが、真の意味で新たなチーム作りが始まるのはこれからだ。キャプテンの笠井康平、田中光という4年生を中心に再スタートを切る青学大に注目したい。
また、優勝候補の一角に挙げられた拓殖大が準々決勝で明治大に敗れたのも波乱の1つ。絶対的エース・バンバの存在は大きいが、それに頼りきることなく内外の核となる赤石遼介、成田正弘がいかに奮起できるかが秋への鍵になりそうだ。巻き返しを狙う新司令塔・岡本飛龍の手腕にも期待がかかる。
一方、今大会ベスト8入りの躍進を見せたのは法政大、明治大、日本大、中央大だ。中でも3位決定戦で対戦した明治大と法政大はともに今季からコーチングスタッフが変わったチーム。11年明治大の指導に当たった塚本清彦コーチが法政大のヘッドコーチに就任したこともあり、古巣と戦う一戦は注目を集めた。
法政大・塚本清彦ヘッドコーチ
「明治と戦うことに関してプロコーチとしては感傷的なものはありません。が、一個人としては、心情的に正直、すごく嫌です。伊澤(実孝)、秋葉(真司)、齋藤(拓実)…自分が育てた選手にはやはり愛着がある。でも、11年間明治で勉強させてもらった恩返しはここでその明治を粉砕することだと思って今日の試合に臨みました。法政大は全員勤勉でまじめなチーム。就任してから数ヶ月はディフェンスの練習しかしてこなかったですが、本当によく頑張ってくれています。これからはもっと緻密なプレーを構築していかなければならないと感じていますし、新しいチーム、新しい選手たちとさらにチャレンジしていくつもりです」
法政大・#24加藤寿一
「塚本さんがヘッドコーチになると聞いたとき、少なからず戸惑いもあったし、チームにはなんというか気が乗らないみたいな雰囲気もありました。でも、塚本さんは自分のバスケットを押し付けるのではなく、これまでの法政の良いところは残して、そこにプラスαのチーム作りをしていこうと話してくれて、それは自分たちが感じていた『足りないもの』を再認識するきっかけにもなりました。この数ヶ月塚本さんとやってきたことが間違いではないことを3位という結果が証明してくれたと思います。東海大と準決勝で戦い、疲れていても決してさぼらないディフェンスや『誰か頼み』にならない意識の高さに圧倒されました。うちがもっと上を目指すためにすごく勉強になったし、この時期に当たれて本当に良かったと思っています」
また、4位となった明治大にとって競り勝った拓殖大戦、敗れたとはいえ最後まで食らいついた筑波大戦は自信につながったと言える。
明治大・長谷川聖児監督
「サラリーマンとの二足わらじで時間が足りないのは事実ですが、選手たちはしっかりした自主性を持って練習に励んでくれています。みんなに常に言っているのは『言いたいことがあったら何でも言ってきなさい』ということ。コーチ、選手、学年に関係なくいろんなことを話し合い、同じ方向に向かうチームを目指していきたいと思っています」
大会を終えたそれぞれのチームのそれぞれの思い。その思いを力に変えてどのように成長していくのか。秋に向けてのさらなる強化が始まる。
大会結果
優勝 東海大学(2年連続2回目)
2位 筑波大学
3位 法政大学
4位 明治大学
5位 拓殖大学
6位 大東文化大学
7位 日本大学
8位 中央大学
個人賞
最優秀選手賞 ベンドラメ礼生(東海大4年)
敢闘賞 馬場雄大(筑波大2年)
優秀選手賞 小島元基(東海大4年)、頓宮裕人(東海大4年)、満田丈太郎(筑波大3年)、加藤寿一(法政大4年)、伊澤実孝(明治大4年)
得点王 ジェフ・チェイカ・アハマドバンバ(拓殖大3年)
3P王 加藤寿一(法政大4年)、本村亮輔(日本大1年)
アシスト王 吉山亨(大東文化大3年)
リバウンド王 ジェフ・チェイカ・アハマドバンバ(拓殖大3年)