新型コロナウイルスの感染拡大を防止するための自粛生活が続いた5月はオンラインセミナーに参加し、国内外で活躍する多くのコーチから刺激を受けた。筆者自身はコーチを目指しているわけでも、バスケの戦術や戦略を習得したいわけではない。コーチングフィロソフィーや組織を束ねてゴールに向かっていく取り組みなどは、社会人として得られるものも多い。バスケに限らず、他競技のコーチによるセミナーや書籍から、これまでも多くのことを学ばせていただいている。
オンラインセミナーがひと段落ついた6月は、読書をしながらベランピング。すでに読破したものや積読状態だった教科書のページをふたたび開けば、オンラインセミナーを通じて世界の名将たちと触れ合ったあとだけにまた違った感動が突き刺さる。
考えることをテーマにした『高校バスケは頭脳が9割』(著・三上太/東邦出版)は、目次や裏表紙にある“沁みる言葉”から興味深い。目次の一例を挙げよう。「惰性で、与えられたものをそのままやるか、それとも中身を考え、練習のポイントは何か、どういうところにつながっていくのか、それらを理解して表現できているかが質の高い練習になるわけです」とは渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)を輩出した尽誠学園の色摩拓也監督の言葉である。
色摩監督をはじめとした5人の高校コーチが、育成世代の選手たちを導くそれぞれのフィロソフィーが綴られている。市立船橋高校の元監督である近藤義行先生は、千葉ジェッツの特別指定選手になった赤穂雷太(青山学院大学4年)とこんな約束をしていた。「お前のピークは26歳だ。いいか、26歳だぞ。その頃は田中大貴(アルバルク東京)のようなポイントガードとして活躍しているからな」とキャリアの素地を作るためにも、大事な3年間だったことが分かる。現在22歳の赤穂がこれからの4年間でどんな進化を遂げるのか、楽しみでしかない。BリーグやWリーグなどトップで活躍する選手たちの高校時代のエピソードも盛り込まれており、ぜひ読んで欲しい一冊である。
バスケ関連の書籍は大半が技術本だ。一方、サッカーなど他競技にはコーチングフィロソフィーやチームビルディングなどを題材にしたものは多い。元ラグビー日本代表を率い、一世を風靡したエディ・ジョーンズヘッドコーチ(現イングランド代表)や、サッカー界の若き名将ジョゼップ・グアルディオラ監督の書籍はビジネス書として楽しめる。Bリーグができ、NBA選手が出てきた今こそ、バスケでも同様なテーマの書籍が増えることを願いたい。
最近では、コーチングをテーマにした2作のマンガにハマった。実業団バレーボール部のアナリストが万年地区大会1回戦負けの中学チームを、気合や根性論ではなく頭脳戦で全国制覇へ向かって導いていく『神様のバレー』(原作・渡辺ツルヤ/作画・西崎泰正)。もうひとつ、『フットボールネーション』(著・大武ユキ)は身体の使い方から世界基準にしたアマチュアチームが、プロクラブと対戦できる天皇杯を通じて改革を起こす、どちらも同じようなストーリーだ。従来の指導法とは違った観点で相手を負かす爽快感があり、一気に読んでしまった。
以前、実績あるコーチからこんな話を聞いたことがある。クリニックなどに呼ばれた際、「手っ取り早く上手くなる(強くなる)練習メニューはあるか?」という質問が必ずあるそうだ。オンラインセミナーや書籍で名将たちに触れれば、その答えは簡単である。ハビットスポーツ(習慣のスポーツ)と言われるバスケだけに近道はなく、基本練習を継続し続けることが大切である。練習のための練習ではなく、自分たちの長所や弱点、相手の特徴などを考えて取り組むことで、同じメニューでもその成果は大きく変わる。NBAやユーロリーグのコーチでもその意見は変わらなかった。タイムマシンがあるならば、学生時代の自分自身に言い聞かせたい…。
気がつけば3ヶ月も電車に乗っておらず、行動範囲が隣町までという期間が続いている。7月こそ、現場(体育館)に戻れますように!
文・写真 泉誠一