恩師である陸川章監督(東海大学)は石崎がドイツで過ごした最後の年にチームを訪ねた日を今でも忘れていない。「一緒に連れて行った田中大貴(アルバルク東京)と2人でまず練習を見学させてもらったんですが、当然のことながらあいつは絶対手を抜かない。試合に向けての準備、トレーニング、どれをとってもすごかったです。試合ではベンチにいても大声でチームメイトを鼓舞する姿を見ました。大学時代に一度も見たことのなかった石崎です(笑)。変わったなあと思いました。本物のプロになったんだなと思いましたね」。大学の監督としてこれまで多くの選手に出会い、育て、送り出してきた。現役を引退して第2の人生を歩き出した教え子たちの姿もたくさん見てきた。「その中に石崎も仲間入りしたわけですが、バスケット人生が終わって彼の人生はまだまだこれからです。私がドイツで見た石崎を思い出すとき、あいつならどんな人生もしっかり歩いていくような気がします。それがバスケットと無縁の道であったとしてもきっと自分らしく歩いていくはずです。ただし、あれだけバスケットが好きで常に高い志を持って打ち込んできた選手ですから、いつかまたヒョイとバスケットの道に戻ってきてくれるんじゃないかなという淡い期待はあります(笑)。正直、今でもそうなったらうれしいなと思う気持ちはありますね」
6月半ばに沖縄を後にした石崎は、7月に入って間もなく名古屋にある新しい職場で働き始めた。コーヒーに興味を持つきっかけとなった『焙煎』を含め、今は学ぶことが山盛り状態だと言う。バスケットを思い出す暇すらない毎日だが、「いつかこのあわただしさが一段落したとき、もうコートにはいない自分に淋しさを感じるのかもしれません」。仕事に慣れ、少し余裕が出てきたらまた文章を書き始めたいとも思っている。「文章を書くことは大好きですから時間が許すかぎりまたコツコツと書いていきたいです」。バスケットに関しても「すっかり縁を切った」という意識は全くない。たとえばクリニックや講演や試合の解説などの依頼があったらどうします?と尋ねると、「僕で良いなら引き受けたいですよ」と答えた。だが、それも少し先の話。今の石崎は選んだ新な人生で『なりたい自分になるため』に絶賛奮闘中。「大変ですけどわくわくしてます」と、気持ちよさそうに笑った。
「自分がなりたい自分になる」── 石崎巧という生き方
(1) 自分がやることは自分で選びたかった
(2) だれもが一目置く『変なヤツ』
(3) ドイツで本物のプロになった
(4) 現役を続けることに限界を感じた
(5) 周りを驚かせた第2の人生
石崎巧の連載コラム【404 Not Found】第31回(最終回)
『終わるとか完成するとかではなく、魂を込めた妥協と諦めの結石が出る』
文 松原貴実
写真提供 石崎巧
写真 B.LEAGUE