そして今シーズン、横浜で長い期間ともに過ごしたトム・ウィスマンヘッドコーチは、「一番苦労しました」。
「毎回ゲームプランをホワイトボードいっぱいに書き、それを全部遂行できれば確実に勝てるという内容です。逆に言えば、これだけ突き詰めなければ勝てない。『エクスキューション(実行・遂行)』という言葉を1日の練習中に何十回と言い、それを大事にしています。シンプルな言葉の裏に何か意図があるようにも感じ、より複雑に考えさせられましたが、そのロジックさえ解ければ勝てる。もう一歩乗り越えられれば勝てるという姿勢は勉強になりました」
4年生になった中村は、将来を考える岐路に立つ。3チームを経験したが、具体的に行きたいチームはない。決め手になるのは「ヘッドコーチ、それが一番です」。GMがほぼいない現状ゆえに、「社長やヘッドコーチがチーム方針を決めているので、その二人の熱意に対して自分との温度差がないチームが合っていると思います」。ビッグガードとして型にはめることなく、大きく羽ばたける環境を求めており、「世界を視野に入れているコーチの下に行きたい」と話すとともに、戦力になれるチーム探しがはじまる。
特別指定選手制度を行使し、大学生もBリーグへ「どんどん行った方が良いです」と背中を押す。強豪が多く、全国の有望な選手が集まる関東大学リーグだが、「逆に他の地域にはたくさんプロクラブがある。プロを目指している人はその目線で大学を選ぶのもありだと思います。愛知にはB1だけで3チームもあり、それだけでもチャンスがあります。関東だけに良い選手が偏らなくなれば、日本のバスケはもっと盛り上がると思います」。大学では学業に専念し、バスケは特別指定選手としてプロの舞台でフルシーズン全うすることだってできる。
特別指定選手制度とは──「自分をどうアピールし、どういうパフォーマンスをして、どういう戦術のチームに自分をマッチさせるかを試す場。就職活動であり、まさにインターンです」。毎シーズン、異なるチームを渡り歩けるのも「特別指定選手の良いところ。それは声を大にして言いたい」と経験者は語る。
NBAのアーリーエントリー同様、卒業を待たずにプロへ進む選手が出てきた。馬場雄大(アルバルク東京)のように学校に通いながら、プロになるケースもある。日本最高峰の戦いを味わってしまったことで、2年前の馬場と同じように大学バスケに物足りなさを感じてしまうかもしれない。
「いろんなことを踏まえて法政で良かったです」と選択は間違えていなかった。降格し、下部リーグの経験も「劣勢な状況が奮い立たせてくれた。振り返れば、良かったのかな」とどんな環境でも成長はできることを証明した。必然と偶然が交錯し、様々な環境に揉まれながら『中村太地』の進化は止まらない。
part1【ドンピシャのタイミングだった3部降格】
part2【そつなくこなすバスケと学業の両立術】
文・写真 バスケットボールスピリッツ編集部