「自分が演出の仕事もしててこんなことを言うのもおかしな話なんですが(笑)、オールスタンディングの情景を、MCが『立ち上がれ』と言って作るのは演出でしかない。自然発生的に起こるからすごいのであって、それを自発的にどうやらせるかというのが演出だと思うんです。
実際、型にはまった応援を作りたい人、盛り上げるために過度なエンタメをやりたがる人もいるんですが、沖縄のワールドカップはそれに乗っからない一見さんの層も多かったことが、良い効果を生み出したと思います。一見さんは、演出側から仕掛けてあげる応援文化で育ってきてないし、僕としてはそこは好きに見てほしいんですよ。『すげぇ!』とか『おぉ!』という感嘆の声のほうがよっぽどいい。これから1万人のアリーナで試合をするチームが増えてきたら、ひたすら声を出してるファンばかりにはならないわけで、ワールドカップはその傾向がよく出てたと思います。何も仕込んでないのにお客さんがあれだけ自発的に叫びだした光景を見て、あれは感動しました。コンテンツの持つパワーが最大限に発揮されたときにもたらす観戦の力みたいなものが、あそこに集約されて表現された、そういう瞬間でしたね。あれを成功体験として、いろんな人が各クラブに持ち帰ってくれたらいいなと思いました」
思い描いていたアリーナの熱狂を目の当たりにすることはできた。近年は、かつて新潟でその名をコールした小川忠晴(先日アイシンコーチを退任)に続き、宇都宮でその息子・敦也の名をコールすることもできている。自身がMCを務めるチームで親子二代の名前をコールしたケースは、おそらく日本バスケット界では初めてのことだろう。関にとっては、中学校の後輩の名をコールするのも「たぶん初めてじゃないかな」とのことだ。
今の関に残された仕事は、日本バスケット界におけるMCの地位をさらに上げること。NBAロサンゼルス・レイカーズの専属として36年もの長きにわたってテレビ中継の実況アナウンサーを務めたチック・ハーンを例に挙げ、選手やコーチだけでなく、バスケットを取り巻く多くの人が認められる世界になることを目指す。
「レイカーズのホームアリーナに行くと、カリーム・アブドゥル・ジャバーとかコービー・ブライアントと並んでチック・ハーンのバナーも掲げられてるんですよ。あんなふうになりたいなとは思います。自分としてはやれる年齢まで精一杯頑張って、あとは周りが評価してくれることですが、MCの権威が上がってくれれば嬉しいですよね」
アリーナMCを始めた当時は決してメジャースポーツではなかったバスケットが、四半世紀の年月を経て大きく変化した。その裏には、日本バスケットMCのパイオニアの功績があることを忘れてはならない。
MC SEKI / 関篤
パイオニアの信念と矜持
【前編】 https://bbspirits.com/bleague/b25041501mcs/
【後編】 https://bbspirits.com/bleague/b25041701sek/
文 吉川哲彦
写真提供 宇都宮ブレックス、B.LEAGUE