気持ちが折れてもおかしくない状況だった。しかし、選手たちは前からプレッシャーをかけ、次々とローテーションして最後まで動き回ってボールを奪いに行く。川崎のターンオーバー22本のうち、16本は後半だけで数えている。アウェーにもかかわらず、滋賀のベンチ裏やゴールエンドにはブースターが大挙し、選手たちの背中を押す。後半は47-39で上回り、意地を見せた。在籍5年とチーム最長のキャプテン・野本大智は、「得点ではなくエフォートや心、魂の部分をコート上で見せる必要があると思っているが、まだ至らない」と語り、自身の未熟さを課題に感じていた。メンタルなのか、技術なのか、チーム力なのか。この状況を打開するための手段について、前田ヘッドコーチに聞いた。
「これまでもこの先も最下位という現状であり、開幕前に24位と予想されていた状況で、どこか1つの部分だけをステップアップすれば勝てるとは思っていない。正直、マインドセットやスキルだけで何とかなる問題ではない。3勝しかしていないが、唯一このリーグで勝っていける可能性があるとしたら、どの分野でも全員が120点の働きをしたときに勝ちを収めることができる。誰か1人だけではなく、私のコーチングも含めて全員が120点を出すことが必要だ」
滋賀のロスターのうち、特別指定を含めて10人が今シーズンから新たに加入。ヘッドコーチをはじめ、スタッフ陣も刷新された。ウィザーズも2021-22シーズンのロスターを維持し、2〜3年かければ1978年以来の優勝に届くと信じていた。しかし、現在ロスターに残るのはカイル・クーズマとコーリー・キスパート、アンソニー・ギルの3人のみ。余談だが、そのシーズン途中から川崎のアリゼ・ジョンソンがウィザーズに加わった。同じリーグで戦うプロ同士である以上は、タレントに差はない。あるとすれば、経験の差が挙げられる。チームケミストリーの構築や若い選手がプロの環境に慣れるには、どうしても時間が必要である。裏を返せば、あきらめずに正しく前へ進んでいれば、時間が解決してくれると信じたい。
翌日、滋賀は奮闘したが、95-98の僅差で敗れた。このような熱い戦いを見せるからこそ、ブースターの心を離さない。幸い、今シーズンから降格はない。負けの中から反省するだけでなく、プラス材料も見つけながら経験を積み、チーム力を高めていくしかない。我がウィザーズも苦しいシーズンが長く続いているが、崩壊した数年前に比べれば希望は感じている。今シーズン終了後、どちらが勝率で上回っているか。このタフな状況を乗り越え、2〜3年後に優勝争いへ絡んでいるのはどちらだろうか。フロント陣の手腕が試される。
FIBAブレーク前の次戦は、元ウィザーズのコーチを務めたライアン・リッチマンヘッドコーチ率いるシーホース三河をホームに迎える。
文・写真 泉誠一