小林HCのコーチとしてのキャリアを語る上で、恩師の存在を忘れることはできない。東海大・陸川章監督は7度のインカレ制覇を誇り、多くの卒業生をプロの舞台に送り込んできた、日本を代表する名指導者の1人。穏やかで面倒見の良い人柄の中にバスケットへの情熱と信念を秘め、尊敬する人物として多くの人がその名を挙げる。
その陸川監督は昨年12月のインカレを最後に監督を退任し、同大学のアソシエイトコーチに転じる。「あの人のようになるというのが最終目標」と敬意を抱いてやまない小林HCは、陸川監督が第一線を退くこのタイミングだからこそ、その指導者としての在り方を受け継いでいきたいという決意をさらに強くしている。
「僕の目指す人間像、リーダー像というのは本当に陸川さんのような人。誰からも信頼され慕われ、謙虚で前向きな姿勢が人を惹きつけて、毎年素晴らしいチームを作る。大学は毎年人が入れ替わる中で、良い組織を築けるのはリクさんの人柄だと思うので、コーチである前に人としてすごく尊敬していますし、ああいうリーダーに近づきたい。もちろん簡単なことではないと思いますが、僕はプロの世界でもリクさんのようなコーチングで結果を残せるということを証明したくてプロの舞台に挑戦したというのもあるんです。先週クリニックで岐阜に来られて、日曜にスゥープスの試合を見に来てくださったんですが、そこで良い姿を見せられたのはすごく嬉しかったです」
HCとACでは必要とされる資質も少々異なり、HC就任初年度でまだ33歳と若い小林HCも今はまだ様々な学びを得る日々。しかし、“陸川章” という最高の手本を間近に見てきた小林HCの、理想を追求し続ける姿勢はブレない。
「正直、ACの頃はHCに対していろいろ思うこともあったんですが、自分がその立場になってみるとHCの気持ちがわかるというか、苦労や難しさを痛感してる部分があります。でも、HCにチャレンジしたのはリクさんのようなリーダーであり人間であり続けること、結果を追い求めすぎて自分の信念を曲げない、必ずチームと一緒に成長する前向きなリーダーでありたいということをテーマに掲げてのことだったので、そこは見失わず、結果どうこうは関係なくしっかりやりきってシーズンを送れるようにと思ってます」
バスケット界全体が盛り上がっている今、地域に根差すプロクラブとして、岐阜もさらに認知度を高めていきたいところ。小林HCは、このクラブの発展のために力を注いでいく想いを改めて示す。
「もともとスゥープスは、田中(昌寛)さんを筆頭にそういうところを大事にしてきたので、応援されるチーム、地域に愛されるチームというところを僕が先頭に立ってそういう姿を見せていきたいです。うちの選手は誠実で、僕も誇りに思う選手ばかりです。
いろんな方にスゥープスを世に広めていただいて感謝してますし、いろんな方に知ってもらって見に来ていただいて、良いチームだなと思っていただければ嬉しい。周りの方の力も借りて成長していきたいと思います」
岐阜は第19節を終えた時点で、プレーオフ圏内の7位。クラブ初のプレーオフ進出が実現すれば、地元の熱はより高まるだろう。小林HCの手腕にかかる期待は大きい。
文・写真 吉川哲彦