「僕のコーチ経験でも、ああいう形で勝つことはなかなかない」
2017-18シーズン途中に宇都宮ブレックスのヘッドコーチとなって以降、ポストシーズンも含めると400試合近く指揮を執ってきた安齋竜三HCをしてこう言わしめたのは、1月12日に開催された越谷アルファーズと千葉ジェッツの一戦だ。オーバータイムに突入したこの試合は同点が13回、リードチェンジが16回に及ぶ中、残り5.4秒に飛び出した井上宗一郎の3ポイントにより、91-89で越谷が勝利。上位勢と2点差、3点差の接戦を演じながら勝てず、千葉Jにも1カ月前の12月11日に2点差で敗れたばかりだったが、その無念を晴らす白星となった。何より、Bリーグの9シーズンを全てB1で過ごし、リーグ優勝1度、天皇杯優勝5度の千葉JをB1初年度の越谷が撃破したことは、Bリーグ公式SNSでも “ジャイアントキリング” と取り上げられるほどの大きなインパクトを残す出来事だった。
宇都宮時代からベンチ入りの全選手を試合に出すよう努めてきた安齋HCが、この日はコートに送り出す選手を限定。既にカイ・ソットを左膝前十字靭帯断裂で失い、松山駿も体調不良で欠いていた越谷は7人で45分間を戦った結果、最終的には3人が4ファウル、市場脩斗がファウルアウトとなった上、第4クォーターにはジェフ・ギブスが2つ目のアンスポーツマンライクファウルで退場していた。しかし、最大の勝因はその7人が45分間を通じて高いエナジーレベルを維持したこと。ゲームMVPに選ばれたのは17得点3スティールをマークし、最後にビッグショットを決めた井上だったが、喜多川修平やティム・ソアレスのハードワークも常に千葉Jを苦しめた。
そして、星川堅信の働きはゲームMVPに匹敵するものだった。42分28秒出場、19得点6リバウンド5アシストが全てキャリアハイ(得点のみタイ)という数字の面もさることながら、越谷に勝利を大きく引き寄せたのが、試合最終盤の星川の2つのプレーだ。3点ビハインドの残り22.4秒、L.J・ピークが3ポイントを外して弾んだボールに飛びつき、ファウルを受けたオフェンスリバウンドと、それで得たフリースローを2本とも決めた後、千葉Jのエンドスローインの際にピークとともにトラップを仕掛け、相手のターンオーバーを誘発したディフェンス。星川の気迫がなければ、井上の劇的弾が生まれるシチュエーションも訪れなかった。
「選手たちのおかげでこの1勝をもぎ取れた」と選手を称賛した安齋HC。“富樫勇樹ストッパー” という重要な役割を任され、脚を動かし続けた星川に関しても名前を挙げ、その成長に希望を見出していた。
「ジェフと長く一緒にやってて、ああいうシチュエーションでジェフにリバウンドを取ってもらって勝った試合がいっぱいあるんですが、それでも昨日は負けてしまった。堅信が40分以上出て、そこで一歩動かせるかどうかというのを今日動かせたのは、ジェフのメンタリティーみたいなものがちょっとずつ乗り移って、良い方向に出た。堅信はそれをベースにしていってほしいなと思います」
井上によれば、普段の練習で「堅信はめっちゃ怒られてます」ということだが、それが期待の裏返しであることを星川はわかっている。安齋HCの叱咤を受けて一瞬不安に襲われることはあっても、そこで自身がどうあるべきかを冷静に考えることができるのが、星川のルーキーらしからぬところだ。
「竜三さんから何か言われたときに、怯むというか、またミスしたらどうしようという気持ちもあるにはあって、でもそれをなくすためにちゃんとした準備が必要だし、そこに負けていてはプレーにならない。次の1ポゼッションに集中して、良いパフォーマンスが出せたらいい。同じミスを繰り返していたらいずれ何も言われなくなって、使われなくなる。今日できなかったことは次できるようにしないとなって思います」