「考えてみればSR渋谷を率いることはルカにとっても新しいチャレンジなわけですよね。彼はそのチャレンジに自分を誘ってくれた。自分の力を信じてもう一度一緒にやろうと言ってくれた。シンプルにそれがうれしかったし、そのとき『ルカと心中したいな』と思ったんです。いえ、心中という表現はあれですけど、一緒にここで頂点を目指したい気持ちって言えばいいのか、うまく言えませんが、とにかくわくわくするものを感じたんですね。さっきも言ったようにアルバルクには特別な思いがあって、それは今でも変わらないんですけど、純粋に今の自分は何をやりたいのか、何が自分をわくわくさせるのかというのを考えたら、こっち(移籍)の道かなと思ったんです。それでも自分をよく知る人たちに相談はしたんですよ。そしたら全員に『もう心は決まってるんじゃないの?』と言われました。思えば、確かにそのとおりで(笑)。よし、だったら自分の気持ちに素直に従って前に進もうと、あらためて、はっきり心が決まったんです」
期待されながらCS(チャンピオンシップ)を逃した昨シーズン
ルカ・パヴィチェヴィッチのヘッドコーチ就任、帰化選手として日本代表メンバーとなり、ワールドカップでも大暴れしたジョシュ・ホーキンソン、そして、田中大貴が加入した昨季のSR渋谷は大きな注目を集め、周囲の期待度も一気に上昇した。しかし、落とし穴はどこにあるかわからない。開幕直前にインサイドの要の1人であるジェームズ・マイケル・マカドゥがケガで戦線離脱すると、行く手にいきなり黄信号が灯った。急遽43歳のベテラン、ジェフ・ギブスを招集するも開幕から黒星が先行し、11試合を終了した時点で2勝9敗。この時期、田中はどんな思いでコートに立っていたのだろう。
「ショックとか気落ちするとか、そういうのはなかったですね。もちろん、周りが期待してくれたように僕たちも自分たちのチームに期待していましたが、一方で自分は結構現実的な見方をしていたと思います。まあ、マック(マカドゥ)のケガは想定外でしたが、そうでなくてもルカ体制になってまだ1年目のチームです。自分も前のシーズンに手術してからほぼプレーしていない状態でしたし、最初のうちはうまくいかない時間帯があるのも不思議じゃないだろうと」
さらっと、そして、きっぱりそう言ってのけるところが田中らしい。苦しい状況にもあわてず、騒がず。
「そうですね。マックがケガしたことでパワーバランスが厳しくなったのは事実ですけど、それはもう考えてもしかたないことですから、それよりスタートのつまずきをどう立て直していくかにフォーカスしなきゃならない。自分たちがやるべきことを日々積み重ねていくしかないんです。そういう意味では(スタート時と比べて)見違えるほど良くなったリーグ終盤は1つの成果だと思っています。個人的には終盤にコンディションの関係で離脱する試合があって迷惑をかけたことが悔やまれますが、ほんと、CSまであと一歩でしたからね。CSは一発勝負の舞台なだけに、もし出られていたらおもしろいチームになっていたんじゃないかなと思うんですよ。そこは本当に残念です」
今シーズンはその悔しさを払拭するためにも必ず勝ち取りたいCSのチケット。田中ならばその先にある優勝もしっかり見据えているのではないか、と思いきや、返って来たのは…
「えっ優勝ですか?そんな自信は全くないです」
再び田中のさらっと&きっぱり発言。えええ~! そうなの? えええ~!
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE