川崎でプレーし続けた要因は「幸せに価値をつけることはできない」
異なる文化の日本でプレーする外国籍選手が、成功を収めるには時間がかかる。すでに活躍し、実績ある外国籍選手を獲得するのが手っ取り早く、マネーゲームになるのは今も昔も変わらない。選手にとってプレー面も、ビジネス的にもステップアップするためには移籍が必要である。NBAや他のプロ競技を見渡しても、12年間同じチームで全うする選手は希になってきた。実際、チームひと筋を公言してきたニックだが、他のチームが触手を伸ばすことも少なくなかった。
「移籍するチャンスもあった中で、東芝やDeNAがそのオファーに対抗する評価をしてくれたからこそ、川崎でプレーし続けることができました。何よりも大事なことは、幸せに価値をつけることはできない、と常に思っていました。僕自身が川崎にいることにすごい幸せを感じていたからです。お金や他の条件に変えてまで、この幸せを手放すほどのものがなかったからこそ、川崎に残りました」
ニックが憧れるスーパースターはマイケル・ジョーダンであり、コービー・ブライアント、ティム・ダンカンらはNBAでフランチャイズプレーヤーとしてひとつのチームを全うしてきた。その時代を見てきたからこそ、同じチームでプレーするこだわりを貫き通した。何よりも、川崎がフランチャイズプレーヤーを大事にするチームである。
「川崎で過ごした12年間は特別なことであり、何も文句のつけようのない環境でした」
引退後、ニックはゴルフ三昧の日々を楽しみにしていた。世界一大きいプロゴルファーで検索してみたら、ニックよりも1cm大きい208cmのジェームス・ハート・デュ・プリーズがすでに活躍しているようだ。プロを目指すわけでも、バスケや日本から完全に離れるわけでもない。「育成世代に関わっていきたい」という思いもある。すでに北卓也GMとも話しはじめており、「次世代の育成が日本バスケの底上げになる。次のレベルへ引き上げて行く手伝いをしたい」とニックは考え、これまでの経験を還元する場を求めている。まだまだその存在は川崎に、そして日本バスケに必要である。第2章の幕開けを楽しみに待ちたい。
ありがとう!NICK THE LAST 〜ニック・ファジーカス引退試合〜
前編 https://bbspirits.com/bleague/b24060401nic/
後編 https://bbspirits.com/bleague/b24060502nic/
文・写真 泉誠一