気持ちで体を動かし、3ポイントシュートを決めたお祭り男が対抗する。残り22秒、そして2.2秒と、ニックの背番号と同じタイミングでうまくゲームが止まる。互いにタイムアウトを取り、勝利の作戦を立てる。2.2秒、1点差で追うREDボールではじまったラストプレー。お祭り男にボールが渡り、逆転シュートを狙う。しかし、目の前にそびえ立つニックが、ガッツリとブロックで阻止。105-104の接戦をWHITEが制し、笑顔溢れる宴を終えた。
40分間で73点を決めたニックはキャリハイを記録し、「引退を撤回しようかな」と北GMと談笑していた声が、会見テーブルに置いたICレコーダーにしっかりと録音されていた。
ニックの引退試合にふたたび雲の上からやって来たブレイビー
ニックの引退試合に、選手もファンも日本中から駆け付けた。元チームメイトのジュフ磨々道やフリオ・ラマス元日本代表ヘッドコーチも海外からビデオメッセージを寄せ、変わらぬ元気な姿を見せてくれた。遠い雲の上から駆け付けたのが、ブレイビーである。2017-18シーズンを最後に、雷リーグでプレー。川崎のコートに戻ってきたのは6年ぶりだが、変わらぬ姿を披露。ハーフタイム中、北GMともボソボソと話していた。「当時……あまり言わない方が良いか、中身の話しは(笑)」と篠山がブレイビーとの思い出を振り返る。
「ブレイビー自身も当時はなかなかお客さんが埋まらない中で、マスコットとしてどうやって存在感を出していくかを本気で考えていました。クラブに怒られるギリギリのところを攻めながらエンターテイメントしたり、時にはボソボソ喋ってみたり(笑)。引退試合でブレイビーを復活させるというクラブの粋な計らいに、そして当時のまま彼が来てくれたことにも感謝したいですね」
今でこそ5千人が埋まるとどろきアリーナだが、東芝時代はサイドラインとエンドラインにパイプ椅子が並ぶ程度であり、ニック曰く「圧迫感もなく、隙間があるなぁ、というのが当時の感想だった」のは言い得ている。スタンド席もまばらだった。Bリーグ開幕とともに「ここまでお客さんが入って、ここまで演出ができて、とどろきアリーナが少しずつ進化して行ったことがお気に入り」とにぎわうホームをニックは喜び、オフに入ったこの日も満員だったことが感慨深い。
引退試合後、北GMからニックの『22』が永久欠番になることが発表された。来シーズンからとどろきアリーナの天井に飾られるユニフォームを見るたびにニックの功績を思い出し、ファンが語り継ぐことで永遠となる。
文・写真 泉誠一