この日のA東京は、自身が持つクラブ主管試合最多入場者数の記録を10513人に更新した。ただ入場者数が増えているだけではなく、チームカラーの赤いTシャツをまとったファン・ブースターが占める割合は確実に高くなっており、赤く染まったその観客席からは、平岩の好プレーの度に大きな歓声が沸いた。試合後のヒーローインタビューに指名された際の拍手と “玄コール” は、おそらくこの試合で最も大きいものだったに違いない。
「ドカーンと沸いてるのは感じてます。もちろん群馬のファンも含めての1万人ですが、自分のため、チームのために応援してくれるし、だから僕たちも良いプレーで返そうと思うし、そのやり取りができてて、良い空間、良い時間だったと思います」
これまでコートに立つ時間が決して多いとは言えなかった平岩の活躍は、ファン・ブースターにとどまらずチームをも活気づける。アドマイティスHCも「シーズン終盤で疲労もあり、いろんなことが起きてる長いシーズンですが、彼の活躍でチームの輪がぐっと近くなって、勝利以外の見えない部分でも、チームにとってプラス材料だと感じています」と、CSを前に良い起爆剤が生まれたという感触を得ているようだ。
当然ながら、A東京の最終目標は2018-19シーズン以来のリーグ制覇。その経験者も少なくなってしまったが、平岩はCSに向けてチームの士気の高まりを感じている。
「僕は優勝したことがないからわからないですが、やることをやって前には進んでると思います。最後にCSで良いパフォーマンスをして優勝するというのが僕たちの向かうところなので、昨日の負けは受け入れられないし、(レギュラーシーズンが)あと2試合あるけど、みんなの意識はCSに向いてる。わかりやすく『頑張ろうぜ』みたいなのはないですが、それぞれがCSに向けてしっかりやってると思います」
もちろん、その中で平岩はこれまでと同じように準備を怠らない。今この時期に出場機会が増えても、CSで平岩の出番が保証されているわけではないが、どんな状況にも対応できるように備えるのが平岩の仕事。自身がコートに立つ時間が長くなれば、それは良いパフォーマンスができていることの証明であり、それでチームも勝利に近づくということを平岩は理解している。外国籍選手にケガやファウルトラブルが発生すれば、平岩の役割は必然的に重要性を増すのだ。
「チームの状況は1日1日変わっていくので、また来週誰がコートに立つのかわからないし、僕にとっては難しい状況なんですが、それでも準備をして、試合に出たらどんどんプレータイムを伸ばしていくことがチームのためになる。その準備も今までしてきたわけだし、これからもするから何かが大きく変わることはないですが、これからは勝たないといけないから、それを勝ちにつなげることが大事かなと思います」
文 吉川哲彦
写真 B.LEAGUE