バスケットのスタイルも、鮫島選手兼HCが思い描くものは明確だ。ボールと人が動くバスケット、リーグで最も速いペースのバスケットを体現することで、他にはない唯一無二のチームを作り上げようというのが、鮫島選手兼HCのビジョンだ。
「目指すのは85点から90点取るバスケットです。見てて楽しいバスケットで、ディフェンスもゾーンなのかマンツーマンなのかわからないような守り方をして、B3リーグの中でもオリジナルなチームにしたいですね。他のチームから、山口パッツファイブってやりにくいよね、スカウティングしにくいね、誰がスタートなの? 誰がエース? って言われるようなチームを作りたいんです」
もちろん、ただ理想論を並べているわけではない。ハイスコアゲームを志向するチームとしてはセカンドチャンスが少なく、オフェンス効率が良くないという課題を自覚し、オフェンスリバウンドが取れなくても絡みにいくことさえできれば、ディフェンスに移行してスムーズにマッチアップできるという点を、東京Z戦の前のバイウィーク中に選手たちに意識させてきたとのこと。その課題に改善の兆候が見られたことを、鮫島選手兼HCは東京Z戦の収穫の1つに挙げている。一歩ずつでも、着実に前進しているのだ。
一方で、一足飛びにステップアップできるほど甘くもない。勝てば順位を逆転し、プレーオフ圏内に一歩近づく翌日の第2戦は、わずか1点差でそのチャンスを逃した。第1戦を取っても第2戦を落とす節が多いということも含め、まだ課題は少なくないということを思い知らされ、鮫島選手兼HCの表情も前日と打って変わって険しいものだった。そこには、コーチ業1年目の苦悩も見え隠れする。
「相手がフリースローの後に2-2-1から2-3のゾーンをやってくるのはわかってたんですが、そこで選手がコンフューズ(混乱)するというか固まってしまう。ディフェンスのローテーションもそうなんですが、誰か1人でも喋ってくれれば良くなるので、喋ってリーダーシップを取る選手が出てきてほしいですね。自分のことで精一杯なのが出てしまってると思います。ベンチから言われなくてもコートの5人でやってくれるのが理想。何のためにそのプレーをするのかというところを突き詰めないといけない。ただ、それぞれの良さは消したくないので、自分もコーチとしてその葛藤と戦ってる最中です」
そんな鮫島選手兼HCはまだコーチ業1年目で、年齢も31歳と若い。昨シーズンまでは当然ながら試合にも出場し、選手としてチームに貢献してきたが、HCを兼務する今シーズンはちょうどシーズンの半分の26試合を消化した時点で、コートに立ったのはただの一度しかなく、それもたった30秒にすぎなかった。コートに立たないその理由は、HCとしての信念に基づくものだ。
「正直なところ、練習にもなかなか入れない中で、練習できてない選手を僕はベンチに入れたくないんです。そもそもこのチームは選手が積極的に朝練に来るようなチームじゃなかったんですが、今はみんな自主的に来るんですよ。僕にはそれができてないのに、プレーするというのはおかしい。
ただ、常々準備はしてます。近所を走ったり、練習会場まで走って行ったり、できることはやってるんです。例えば重冨と吉川がケガして、誰がガードやるのってなったら『俺が行くしかない』ってなると思いますし、その1週間は文句を言われないくらいバリバリ練習するつもりです。そのために体重もキープしてます」