吉川は、一昨シーズンまでさいたまブロンコスでプレーしていた。山口に移籍してきたのは、さいたまが緑色だった時代から縁のある成田俊彦代表からの誘いを受けてのもの。移籍に際しては、一風変わったこんなエピソードを持っている。
「シーズンの最終戦が山口との試合で、成田さんが自分の所に来て『待ってるよ』って言ってくれて、さいたまに残る気はなかったんですが『山口か……遠いなぁ』って感じだったんです。でも、その後成田さんからやたら海岸の写真が送られてくるんですよ。『今日も夕日が綺麗』とか『家の目の前が海なんだよ』とか、こっちはどうしたらいいのかわからなくて(笑)。結構それが続いたんですが、要は『良い所だからおいで』ということで、同期のリッキー(山口力也)もいたし、知ってる選手も多いし、さいたまでくすぶってたシーズンだったんですが、行ったら何か変わるかなと思って、チャレンジする意味も込めて『行きます』って言いました」
山口で再び主力の一角を担うようになり、今はバスケットと向き合う充実感を得る日々。一アスリートとしての向上心が再び上昇カーブを描いているということも、はっきりと認識している。
「本当に今シーズンは良い感じです。埼玉のときは引退も考えてたんですが、今28歳で案外まだ動けるなってわかってきて、もっとレベルアップできる気がしてます。友希をサポートしながら、(上松)大輝さんとかベテランの人の良いところを盗みながらやれればプレーの幅も広げられる。もっと頑張れる気がするし、もうちょっと良いところを見せたいです」
埼玉と山口では、当然のように取り巻く環境は大きく異なる。特に大きな違いといえば、メディア露出の頻度もその一つ。首都圏にある埼玉は、大手全国紙や民放キー局に取り上げられる機会が皆無に等しく、メディア露出はかえって少ない。いわゆる地方都市にあるクラブのほうが地域に根づき、ローカルメディアにとっても重要なコンテンツになり得るのだ。吉川も、自身がテレビで取り上げられることに驚き、それと同時にメディア露出の多さが良いモチベーションにもなっているようだ。
「アナウンサーの方が『今日は何の日だと思う? 吉川治耀さんの誕生日です!』って言ってて、相手の方が『あぁ、それはわからないですね』っていうやり取りを見て、気まずかったです(笑)。八王子戦の後だったかな、『怪盗ジョー』っていう名前もつけてくれて、そんなことは今までなかったんでビックリしましたね。埼玉はテレビで取り上げられないですが、こっちは番組にチームのコーナーがあって、すごくありがたいです。勝てば、ニュースを見た人が来てくれると思うし、SNSも広報の斉藤(啓恵)さんが頑張ってくれてるし、勝ってるところを見せたいですね」
地元・東京から遠く離れた土地で輝きを取り戻し、新たなモチベーションも生まれている吉川は、ここからどのような活躍を見せ、山口パッツファイブというまだ新しいクラブをどう引っ張り上げていくだろうか。
文・写真 吉川哲彦