福澤にはシュートという大きな武器がある。B1・B2を通じて500本の3ポイント成功を達成した第1号の選手であり、福澤自身もシュート力には自信を持っている。しかし、バスケットは試合の約半分の時間がディフェンスに割かれ、オフェンスもシュート以外に必要な要素は多い。A東京が一芸で十分な出場機会を確保できるチームでないことは、福澤も重々承知だ。
「もちろんシュートを期待されて獲ってもらったとは思うんですが、それ以外のスタンダードを上げていかないといけない。HCが試合に出す出さないというのは、結局信頼じゃないですか。こいつはこの場面で応えてくれる、こいつを出しとけば安心だというのがあるから、プレータイムを勝ち取れるんだと思う。このチームはいろんな部分でスタンダードがあって、やらなきゃいけないことがいっぱいあるので、そこを上げていかないと信頼は勝ち得ないと思います」
14試合を消化した時点で、福澤の出場は9試合。10分以上コートに立った試合はまだない。昨シーズンの茨城でも出場機会はあまり多くなかったが、A東京で自身がコートに立てない理由に関しては「すごく痛感します」とのこと。リーグ屈指の強豪にあって、個人として数字を残すことにはこだわっていない。
「めちゃくちゃすごい選手たちの中で、実力的に僕は出られなくて当然と思わされます。アルバルクは、個人のランキングを見ても選手が入ることがあまりない。コートに立ったときに結果を出すというよりは、チームとして良いプレーを5人でやるということを心がけてます。3ポイントを高確率で決められれば個人としては良いし、それを求められているとも思うんですが、一瞬空いたからパーンと打って5分の5で決めるより、ちゃんとチームで作ったノーマークを10分の5で決めるほうが、チームの流れとしては良いと思うんです。数字に残る残らないではなく、いつ出されてもHCやチームから求められているプレーができるようにというのが一番です」
そもそも福澤には、A東京への移籍を決断した際に「優勝を争うチームの中で、そんなに簡単に15分や20分出られるとは思ってない」という意識があった。もちろん、出場機会が少ないことに関しては「悔しいし、しんどいときもある」というが、「そこでやめちゃったらノーチャンス」。明確に優勝を目標とするチームにいることは誰にでもできることではなく、「1年間やり通せば、たとえ試合に出られなくても得るものは絶対にある」と今後のキャリアも見据える福澤は、つきっきりで個人練習を見てくれるコーチ陣に応えるためにも試合に出たいという想いを持ちながら、全ての経験を自身の財産にしようとしている。「苦しみながらも努力できる」ことに価値を見出せるのが、福澤の最大の長所なのかもしれない。
「正直、Bリーグでプレーしたいとは思ってましたが、できるとは思ってなかった。昔の自分に『アルバルクでプレーする』って言っても信じられないと思うんですが、実際に今ここにいるというのは、自分のやってきたことが全部正解だったとは思わなくても、軸になる部分は間違ってなかったんだなと思える。ブレない部分を信じてやり続けるのが大事かなと思います」
文・写真 吉川哲彦