中編『頭の中には四六時中バスケットがある』より続く
「僕は日本人選手と外国籍選手のglueの役を担いたい」── それは現役時代、伊藤がよく口にしていた言葉だ。glueとは “糊付けする” という意味。高校、大学とアメリカで8年過ごした伊藤だからできる役割だったに違いない。そして、GMに就任した今、伊藤が目指すのは「フロントと選手のブリッジになること」だという。自分が選手だったからこそわかる “現場” とその現場を支えていくフロント。両者を繋ぐ強固な橋になるべく「ひたすら努力の毎日です」と笑った。
選手たちとポジティブなエネルギーをシェアしていきたい
── ここからはGMという仕事のやりがい、またGMの目から見た今シーズンのアルバルク東京についてお聞きしていきたいと思います。が、その前に1つ。今年の夏沖縄で開催されたワールドカップの感想を聞かせてもらえますか。見ていて触発されるようなものはあったでしょうか。
伊藤 ありましたね。ものすごく刺激を受けました。選手たちの戦う姿はもちろんですけど、トムさん(ホーバスHC)をはじめとするコーチ陣のこの大会まで地道に積み上げてきたものの大きさを感じました。相手をきっちりスカウティングして、そのうえでできることはすべてやる。試合に臨む準備、努力はすばらしかったですね。そういうのって必ず選手にも伝わるじゃないですか。だからこそ全員が同じ方向を向いて、同じ気持ちで、こうしたら勝てるという自信を持って戦えたんだと思います。心が1つになっているチームって見る者に感動を与えますよね。今シーズンのアルバルクもそこを目指します。もちろん “強いアルバルク” というのはブレずに追求していきますが、それだけじゃなくて、もし負けたとしても、あっ負けたらだめですけど(笑)、仮に負けたとしてもお客さんに「ああ、おもしろかった」「いいゲームだった」と思ってもらえるような魅力のあるチームを作りたいと思っています。
── 『強くて魅力のあるチーム』ですね。
伊藤 そうそう、それです(笑)。おじいちゃんであっても、おばあちゃんであっても、小さな子どもであっても、アルバルクの試合を見て、あのプレーが良かった、あの演出が良かった、あの選手がすばらしかったと思って、最後は「このチームに惚れた」ってなる(笑)、そういうアルバルクを作るのが目標ですね。
── 新しいポイントガード、新しい外国籍選手が加わった今季の戦力についてはどんな感触をお持ちですか。
伊藤 メンバーが変わってもアドマイティスHCがやろうとしていることは同じですし、それぞれがそれを理解して、責任感を持って遂行していくことは昨シーズンと変わりません。ただ、昨シーズンを振り返れば、やっぱり「ここが足りなかったね」とか「あそこはもっと攻められたね」とか、いくつもの反省点があります。今シーズンはそこを突き詰めたうえでの補強、強化をしたつもりですし、その意味では変化のシーズンだと言えるかもしれません。プラスに変化してレベルアップしていくシーズン。その手ごたえは感じています。
── GMとして特に選手に求めていることはありますか。
伊藤 バスケットのスキルはもちろん大事なことですが、一番求めるのは精神的なタフさでしょうか。僕はよくハングリーという言葉を使うんですが、ハングリー精神はバスケット選手にとって必要なことだと考えています。選手たちによく言うのは、Bリーグで優勝できたとしてもそれで満足するなよということ。その先にはアジアがあって、さらにその先には世界があるんだぞって。メンタル的にもフィジカル的にもタフになって、責任感を持って試合に臨む。自分が定めた目標に向かって行く。選手を見るときは、出身校とかキャリアよりもそういった資質を持っているかどうかを重視します。たとえ練習生であってもアルバルクに参加してくれる選手とはポジティブなエネルギーをシェアしていきたいし、それはチームにとってとても大きなこと。僕が一番大事に思っていることです。