その一方で、田中と同様に立飛での5シーズンをともに過ごしたパヴィチェヴィッチHCに関しては、若干の違和感を覚えるところもあったようだ。とはいえ、根本の部分はそう簡単に変わるものではなく、ピック&ロールを軸としたハーフコートオフェンスはA東京時代と同じ。肝心のバスケットスタイルには “ルカイズム” をまざまざと感じたということだ。
「なんか静かになったなって思いました。あまり叫んでなくて、どうしたんだろうなって。ラインもあまり出てないし(笑)、ちょっとおとなしくなってる。でも、バスケはアルバルクでやってたときと変わってなくて、渋谷さんがやろうとしてることも『あ、これね』みたいな感じでした。5シーズン一緒にやってきた分、すごくわかりやすいというか、良い意味でルカは変わってないんだなって思いましたね。ただ、ベンチで静かになってるっていうだけで(笑)」
長年の盟友たちは去り、その姿は相手側のベンチにあった。その代わりというわけではないが、今シーズンのバランスキーには再びタッグを組む相棒がいる。茨城ロボッツから移籍加入した福澤晃平は、東海大諏訪高の1年後輩。クラブが独自に発行している今シーズンのイヤーブックで、福澤はアンケートになると一緒にプレーしたい選手の項目に必ずバランスキーの名を挙げていたことを明言しているが、バランスキーも今回13年ぶりにチームメートとなったことを喜んだ。そして、そんな福澤が再び身近にいることが、バランスキーにとって新たな刺激にもなっている。
「ずっと昔から連絡は取り合ってましたし、お互いの活躍も見てました。高校時代はシューティングパートナーでずっと一緒にやってて、その晃平がアルバルクに来るとなったときはすごく嬉しかったです。今日みたいに一緒に試合に出て、すぐシュートを決めて、さすがだなと思います。普段の練習も一番やってるイメージがあるので、打ったら入るんだろうなというのはたぶんチームの全員が思ってる。彼は自分に厳しいし、努力も重ねてきてる。そういうのを見て、高校時代から一緒にやってきた自分も頑張らなきゃな、負けてられないなと思います」
この日の試合後、A東京のファンが選ぶ昨シーズンのMIP表彰が実施され、選ばれたのがバランスキーだった。タレント揃いのA東京の中で、バランスキーも十分にスター性を持つ1人でありながら、一見すると地味にも感じられるような役割に徹することもできる。この表彰は、A東京一筋で今シーズンが10シーズン目となるバランスキーがファンに愛されている証明であると同時に、コート内外での献身性の高さが認められたものでもあった。そんなバランスキーの存在価値は、覇権奪回を目指すA東京には不可欠。デイニアス・アドマイティスHCの指揮下、新時代を築こうとしているA東京は、田中からキャプテンを受け継いだバランスキーが引っ張っていく。
文 吉川哲彦
写真 B.LEAGUE