この試合では、森山HCの臨機応変な対応も奏功した。前日に試合があった場合は、試合会場に入ってすぐにビデオミーティングの時間を持つのがルーティーンになっているそうだが、この日はそこで伝えた戦術に対して選手たちが混乱してしまったところがあり、選手入場の後にすぐロッカールームに戻って再度戦術を共有。それで選手たちの頭もクリアになり、遂行力が上がったということだ。
森山HCの対応力は、コート上でも発揮された。後半に3ポイントでたたみかけることができたのは、ワイドオープンを作る形ができていたのが大きな理由。1on1の決定力が高いハミルトンがボールを持つと、それで全体の動きも止まってしまうのは前所属の滋賀レイクスや熊本ヴォルターズでも見られた光景だが、この日はあえてハミルトンからボールを離させ、ボールムーブとスペーシングを強調。その結果、プルアップでジャンプシュートを打つことが多いハミルトンに、キャッチ&シュートのシチュエーションが増えた。「コーナーでジョーダンが3ポイントを打った、あのボールムーブメントはベストでした。ハンドラーの道原がしっかり作ってくれて、綱井と渡邊(翔太)もスペースを取ってくれた」と振り返るように、相手のディフェンスを見事に崩す理想的なオフェンスが展開できた。
そもそも、このときの道原と綱井、渡邊という3ガードに近いラインアップも、普段とは異なるローテーション。渡邊がオフェンスで乗っていたこともあるとはいえ、この大一番で思いきった選手起用に踏みきったという点も森山HCの面目躍如だ。
地区優勝を果たした一昨シーズンは、痛恨のブザービーター3ポイントを浴びて仙台89ERSに敗れ、昨シーズンも熊本とダブルオーバータイムの死闘を演じながら敗退。2シーズン続けて阻まれたクォーターファイナルの呪縛を、西宮はようやく解くことができた。そして前述の通り、森山HCも昨シーズンは福島を率いてクォーターファイナル敗退。その壁を破った喜びを森山HCは隠さず、次のステップを楽しみにしている。
「やっぱり嬉しいですよ、レギュラーシーズンも苦しんだんで。でも、結果は出てないですが良いチームだったんです。選手は目標に向かってやってくれてましたし、若手はベテランに臆することなく、川島(聖那)なんて(松崎)賢人には『賢人さん』なのに道原のことは『ノリ』って呼んでますからね(笑)。それをベテラン勢も関西人らしく受け入れている。10点差以内で負けたのが20試合あって、そのうち10試合くらいは5点差以内だったんですよ。35勝くらいしていてもおかしくなかった。ずっとケガ人がいる状態でも言い訳せず、全員で乗り越えられたので、セミファイナルも楽しみですね。見たことのない景色ですが、思いっきりぶつかっていくだけです」
文 吉川哲彦
写真 B.LEAGUE