FIBAのスケジュールがシーズン中にも組み込まれるようになったことで、クラブとしては選手が代表に選ばれる喜びと、リーグ戦中に主力がチームを離れる不安とが入り混じる、複雑な思いが胸中を行き来することは想像に難くない。
ともすれば、送り出しに躊躇することだってあるだろう。
「うん、それはドイツでもある。絶対ある。どこのチームも選手が行って怪我をして戻ると困っちゃうんです。ドイツでは絶対に、ナショナルチームに行ったら先にインシュアランス(保険)のことをやります。怪我をしたらドイツのインシュアランスが払いますとか、そういうところでも、選手のことを考えている。クラブのことを考えている。経済的に保証があるとか、(配慮が)いろいろある。キャンプがあっても選手が疲れていたら、一緒に2部練じゃなくてリハビリの方を先にやるとか。試合が大事だから、試合で頑張ってほしい大切な選手はトレーナーと一緒に行って見るだけとか。そういうディプロマシーというか交渉をすることもできます。結局はドイツにしても日本にしても、自分の国が国際試合で勝つことが目的だから、そういうコミュニケーションがあって、みんななんとか納得していると思います。今のドイツでは。」
話を聞いているうちに、湧き上がってきた疑問が口をついて出る。
長く日本に通じ、日本語も不自由なく使いこなす。
海外と日本との距離感を十分に把握した優秀なコーチが、日本代表に関わる可能性はこれまでなかったのだろうか。
「前にオファーが来ましたけど、ヨーロッパのシーズンのスケジュールと日本のシーズンのスケジュールが合わなくて、来られなかったんです。去年はドイツのナショナルチームのオファーが来ましたが、結局断りました。私の18歳の息子がドイツのナショナルチームで今、やっていますので、ドイツと日本は特に興味があります。二つの国で私がずっと働いているので、どちらにも勝って欲しいですね。ドイツも強ければいい、日本もたくさんの選手のことを高校とか大学の若いころから見ていたので、ぜひ頑張って欲しいと思います。」
文 石崎巧
写真 B.LEAGUE