「僕が最後に打つプレーだったので、しっかり打ち切って決めようと思ってコートに立ちました」とその場面を振り返る石井。練習では木下アシスタントコーチが成長を促し、この試合では浜中謙アシスタントコーチが石井にラストプレーを託す。伊佐ヘッドコーチは、「ライアンか石井が2点を取りに行くデザインだった」と明かす。しかし、「結果的に3ポイントシュートを打ちやがって」とクレームをつけたくなるほど、素晴らしい瞬間が待っていた。盛實海翔のスローインからはじまるラストプレー。ケリーがスクリーンをかけ、わずかなスペースが空いた石井が左コーナーから思いきって3ポイントシュートを放った。
「今日は1本も3ポイントシュートを打っていなかったので、僕らからしたら2点で良いって言ったじゃんという感じだったけど…」と伊佐ヘッドコーチらコーチ陣が求めていたこととは違った。勝負を決めた石井の意見は、「空いているスペースに動くことを意識していました。それがたまたま3ポイントシュートだっただけ。自分としても、中途半端な距離よりも3ポイントシュートの方が、確率が良いなとも思ったので打ちました」とこの日最初で最後の3ポイントシュートを沈め、97-95で勝負を決めた。最後は伊佐ヘッドコーチも、「素晴らしいデザインだった」と石井と浜中アシスタントコーチを称えていた。
伝統的にディフェンシブなSR渋谷の変化
11試合を終え、総得点999点(平均90.8点)はB1トップとなるSR渋谷。ケリーが欠場したときも100点前後を奪っており、「ちょっと気持ち悪い感じ」と伊佐ヘッドコーチも違和感を抱く。得点が伸びている要因について、「テンポが速くなっていること。特に今まで対戦してきた相手が、同じようにアップテンポなチームだったので、それに乗っかって点取りゲームとなっていた。盛實もやっと彼らしい調子が出てきたが、彼のポテンシャルから言えばまだまだスコアできていない。それでも今は90点を超えており、80点以上は常に獲ることはできる」とオフェンスへの自信がうかがえる。
しかし、SR渋谷は伝統的にディフェンシブなチームであり、「気持ち悪い」感じも納得がいく。競り勝ったが、茨城に95点を獲られたのはSR渋谷らしくない。「ひとつは、今日もそうだが、3ポイントシュートを今シーズンは多くやられている。そこを改善しなければ失点も減らない。もうひとつはこれまでも課題だったセカンドチャンスポイントを少しでも減らすこと。それができれば、80点以下に抑えられる」と伊佐ヘッドコーチは挙げ、課題は明確だ。それを改善すべく、新たなディフェンスを試しており、その精度がまだ不十分なところが失点につながっていることも分かっていた。
もう一度、SR渋谷の信条を取り戻すため、「上位チームの平均失点が80点以下だったので、それよりも低い77点に抑える目標を選手同士で決めました。今年はどのチームも得点が上がっており、失点数も上がっているとは思いますが、そこにこだわっていくことが大事になります。自分たちで決めたことなので、それに責任を持ってアプローチしたいです」と石井は話し、ディフェンスの精度を高めていく。
今週末はレバンガ北海道を迎え、来週水曜ゲームは現在西地区首位に立つ三遠ネオフェニックスとの対戦とホームゲームが続く11月。現在1ゲーム差の2位で三遠を追いかけるSR渋谷にとって、勢いづける3連戦にしたいところだ。
文・写真 泉誠一