鹿野によれば、今シーズンの東京Zは日本人・外国籍を問わず選手の合流が全体的に遅く、全選手が集まってのキックオフミーティングが開幕の約1週間前だったという。「なので、不安のほうが大きかったですけど(笑)」という鹿野は、西宮に1つ勝っただけで慢心を抱くことはない。
「活躍した選手は自信を持ってほしいです。ただ、客観的に見ればたまたま。これがうちの実力だなんて言うつもりは全くないです。ここ3試合入らなかったシュートがたまたま入ったというのもありますし、最後に相手のシュートが外れてくれたとか、勝てたのもいろんな要因がある。若手は、上手くいったところを自信にしてほしいですし、城宝さんもしかりですが、僕たちベテランはしっかり気を引き締めて、『毎回こう上手くはいかないよ』ということを伝えながら、みんなで成長していきたいです」
自身の経験をチームに落とし込み、再建中のチームを引き上げることを意識する鹿野。昨シーズンまでファイティングイーグルス名古屋でプレーし、B1昇格も経験した選手として、低迷が続く東京Zに相当な覚悟を持って移籍してきたのかと思いきや、鹿野は「全然、覚悟も何もないんですよ」と言ってのける。
「というのは、僕、引退するつもりだったんですよ。2カ月間どのチームからも話がなくて、セカンドキャリアを探してたんです。いくつか自分からお願いしたチームはあったんですが、どこからも『要らない』と言われて、たまたまここが拾ってくれた。そのことに本当に感謝してます。だから、試合に出なくたって、僕がこのチームに与えられることは何でも与えたい。本当はなかったはずの1年なので、練習も試合も若手と一緒にバスケットができるのが楽しいなと毎日思いながらやってます」
チーム内では年長者の部類に入る鹿野だが、これまで在籍してきたチームでは常にムードメーカーだった。その明るい性格で、橋爪HCも「チームが沈みそうな状況でも明るく盛り上げてくれるし、引き締めるところは引き締めてくれる。チームに必要な選手」と賛辞を惜しまない。チームをポジティブな空気で包み、盛り立てるのは鹿野の得意分野。キャリアを延ばしてくれた東京Zに対する恩返しの意味を込めて、「僕が試合に出ているようじゃダメなんですよ。若手に頑張ってもらわないと」とチーム全体の成長を望み、そのために若い選手たちの背中を押したい気持ちが強い。そんな鹿野の存在は、東京Zにとって少なからぬ価値がある。
文 吉川哲彦
写真 B.LEAGUE