あまりにも高かった前評判を裏切ることなく、B3参入初年度にして圧倒的な成績を残し、2022-23シーズンはB2にステージを上げる長崎ヴェルカ。オフの間にはパブロ・アギラールやジャワッド・ウィリアムズアシスタントコーチなど補強も抜かりなく進め、B2でも優勝候補に名乗りを上げることは間違いない。
ただ、来たるシーズンの開幕まではまだ2カ月ある。その前に、旋風を巻き起こした昨シーズンについて、改めて振り返っておきたい。今回の主役は、初代キャプテンにして唯一の長崎県出身選手である髙比良寛治。彼がどのような想いでこの1年を過ごしたかということは、長崎ヴェルカというクラブのこれからを見ていく上でも知っておく意味があるだろう。
ジャパネットホールディングスが長崎県に新しいバスケットボールクラブを設立すると発表したのが2020年7月。香川ファイブアローズに在籍していた髙比良はそれをSNSで知ったが、当初はそれ以上のことは何も知らず、入団することは全く考えもしなかった。
「クラブ名を発表する会見が長崎駅であって、そのタイミングで僕もツイッターをフォローさせてもらった記憶があるんですが、何回も通ったあの長崎駅にあんなに人が集まるのかという衝撃と、どんなチームができるんだろうというワクワク感はありました。でも、正直自分が入ることはあまり興味はなかったです」
もちろん、自身の故郷に誕生するクラブに何の魅力も感じなかったわけではない。途中で打ち切りとなった2019-20シーズン、全47試合にスターター出場して1試合平均9.0得点を挙げた髙比良の眼前には、B1という大きな目標があった。B3の鹿児島レブナイズから始まったキャリアは順調に階段を上っているところであり、髙比良が最優先していたのはその点だった。
「いずれは長崎でプレーしたいという気持ちはありました。でも、B3というのが当時はやっぱりネックでした。カテゴリーを下げるのは難しいことでもありましたし、僕自身もB3からB2、そして次はどこかB1に行けるかなという位置だったので」
そんな髙比良の元に長崎からオファーが届いたのは2021年1月。所属クラブに通知した上での翌シーズンの契約交渉が解禁される時期であり、長崎の動きは早かった。といっても、クラブのB3参入が正式に決まる前の段階だったため、それ以前の時期に選手個人に声をかけることも可能だったようだが、長崎はBリーグのルールに則ってオファーしている。
「熊本ヴォルターズ戦のときに、ベンチの後ろに伊藤(拓摩GM)さんがいたんですよ。たまたまそのとき僕がすごく活躍して、その1週間か2週間後くらいには連絡がきました。つながりのある大村将基(現・三遠ネオフェニックススキルディベロップメントコーチ)さんのところにリーグ関係者から『連絡先を教えてくれ』という話があったらしくて、そのリーグ関係者に頼んだのが伊藤さんだったんです」
もっとも伊藤GMは、編成に着手するまでは髙比良の存在を知らず、本人と初めてコンタクトを取った際も「ごめん、正直名前も知らなかった」と打ち明けている。九州出身選手をピックアップする中、髙比良のハイライト映像を見て「あれ? こんな選手いたの。ラッキー」と思ったらしく、髙比良によれば「たぶんそれで僕の試合を見に来たんだと思います」とのことだ。