レギュラーシーズンは東地区4位に甘んじ、ワイルドカード枠でアウェー参戦となった宇都宮が無傷で勝ち取った頂点の過程には「自分たちはシーズンを通して最も成長したチームだ」という選手たちの自負がある。その輪の真ん中に覚醒したエースが戻ったことでまた一段ギアが上がったチームは最後の舞台で『最強のブレックス』になったのではないか。鮮やかに勝ち進んだ王者の姿に「このチームは必ず成長し続けられると思った自分に間違いはなかった」という田臥の言葉がよみがえった。
今シーズンを牽引した琉球、爪痕を残した島根
一方、敗れたとはいえ、レギュラーシーズン最高勝率を記録し悲願のプレーオフファイナルに駒を進めた琉球ゴールデンキングスは間違いなく今季のBリーグを牽引したチームだったと言える。
開幕前に発表された期待のルーキー渡邉飛勇のケガに始まり、その後も牧隼利、田代直希ら主力のケガが相次ぎ長期の戦線離脱が余儀なくされた。その中で新エース今村佳太の成長や移籍早々チームにアジャストしたコー・フリッピンをプラス材料として積み上げていったチームケミストリーは「乗ったらどこよりも怖い琉球」を生んだ。チームのアイコンの1つでもある並里成がファイナルの舞台に立てなかったのは返す返す残念だが、第2戦4Q終盤に見せた2点差に迫る猛追には琉球の底力を感じ、同時に「このままでは終われない」トップチームの意地を見たように思う。
その琉球とセミファイナルで死闘を演じた島根スサノオマジックも今シーズン新たな歴史を刻んだチームだ。金丸晃輔、安藤誓哉という代表クラスの選手が加わったことで開幕前から注目される存在だったが、レギュラーシーズン西地区2位でチャンピオンシップのホーム開催を勝ち取り、クォーターファイナルでA東京を破る姿をどれほどの者が予想できただろうか。安藤が見せたリーダーとしての熱量や対琉球第2戦で34得点を稼いだペリン・ビュフォードの活躍が印象深いが、特筆したいのは全試合を通して伝わってきた『勝ちに行く気迫』だ。セミファイナルまではあと一歩及ばなかったが、チャンピオンシップを盛り上げる存在として残した爪痕に拍手を送りたい。
収束しないコロナ禍は今シーズンもBリーグに様々な影を落とした。先述した琉球の並里に加え、宇都宮の喜多川修平もファイナルを欠場、チームのアドバンテージと言えるビッグラインナップの一角だった川崎のパブロ・アギラールもセミファイナルの舞台に上がれなかった。致し方のないことではあるが恨みは残る。だが、その一方ベストメンバーで臨めなかったチームの中で躍動したA東京の吉井裕鷹や外国籍選手を3人欠きながら川崎に食らいついた名古屋ダイヤモンドドルフィンズなど『今のチームでやるべきこと』を遂行する姿を見られたことは幸いだったと思う。
クォーターファイナルから始まった熱戦、激戦の興奮は、最後に迎えた『Bリーグ初の東西対決』で頂点に達し、宇都宮、琉球ともにファイナリストの名に恥じないハイレベルな戦いを見せてくれた。全てが終了した後の最初の感想は「ああ、おもしろかった」である。島根、秋田ノーザンハピネッツというニューフェイスも加わった今季のプレーオフは例年以上の盛り上がりを見せ、見る者にバスケットの楽しさ、おもしろさ、そして醍醐味を存分に伝えてくれた。
文 松原貴実
写真 B.LEAGUE